第8話 まさかの転入生と新任教師登場というお話

 終わってしまった。高校3年生の夏休みが終わってしまった。今日から学校だ。受験まで、もう長期休暇などない。冬休みなんて勉強漬けになるだろうし、これから勉強地獄の始まりだ。


 そんな憂鬱が嘘のような暑い日差しの中、シンイチは高校の校門を潜る。周りは友達と談笑している人が多い中、シンイチは1人で教室に向かう。


「おっす! おはよう」


 後ろから肩を叩かれながら声をかけられた。振り返るとそこには見知った顔があった。


「おぉ、おはよう」


 シンイチに挨拶してきたのは中学からの付き合いのある、笹山祐太だった。彼はバスケ部に所属しており、背も高くイケメンで女子にも人気がある。ただ、シンイチの目から見るとチャラい奴という印象が強い。


「お前さぁー、もっと明るくしろよな!」


 祐太は笑いながらそう言った。


「別にいいじゃんか……」


 シンイチはボソッと呟くように返事をした。


「おいおい……。まぁ、お前らしくていいか。だけどさ、元気だしてこーぜ」


 祐太は少し呆れたような表情を浮かべていた。


「はいはい……」


 シンイチは適当に相槌を打ちながら自分の席に着いた。そして鞄の中から教科書を取り出し机の中に入れ、数学Ⅲの問題集とノートを机の上に出した。そしてシャーペンを手に取り、問題を解き始めた。周りのクラスメイト達は仲の良い人達同士で集まって楽しそうにしている。しかしシンイチはその輪の中には入らない。


「ねぇ、ちょっとこの問題教えてくれない?」


 ふと横を見ると、女の子が立っていた。彼女は同じクラスの東雲結衣さんだ。この子も中学校が同じで、それなりに仲良くしていた。だが、高校では一年二年と別のクラスになってしまったため話す機会が少なくなっていたのだ。


「あぁ……うん。どこ?」

「えっと……ここかな」


 結衣さんはそう言いながら問題を指差した。


「あ、そこね」


 シンイチは結衣さんの方に体を寄せて一緒に問題を見た。彼女の髪からはシャンプーの香りだろうか? 良い匂いが漂ってくる。そういえばヘレーネたちも良い香りがしたなぁ。シンイチはそんなことを思い出しながらも、あれは夢だったんだと諦めて、結衣さんが示した問題を解いていく。


「ありがとう! 助かったよ」


 結衣さんは笑顔でお礼を言いながら去って行った。

 シンイチは去っていく彼女を眺めながら思った。彼女みたいな可愛くて明るい子が近くにいたらどんな感じなんだろう。きっと楽しいんだろうなぁ……。


「結衣のこと見て何考えてんだー?」


 祐太はニヤつきながらシンイチに声をかけてきた。


「別に何も……」


 シンイチは不機嫌そうな声で答えた。すると祐太は苦笑いをしながらこう言った。


「お前って分かりやすいよな」

「う、うるさい!」


 シンイチは恥ずかしくなり顔を真っ赤にして反論する。祐太はまたもや苦笑いをしていた。


「まぁ、でも確かに可愛いと思うぞ。あいつ結構モテてるみたいだし」

「へぇー……」


 シンイチは素っ気ない返事をする。


「なんだよ、興味無いのか?」


 祐太は意外だという表情を浮かべながら聞いてきた。


「まぁ……」


 シンイチは正直に答えることにした。確かに東雲結衣は可愛い。だけど、シンイチは世界一美しいと言っても過言ではない程に美しいヘレーネ・ルイス・クリスタルに会っている。それが例えシンイチの夢や妄想、幻想だったとしても、彼女と比べてしまうと他の女性は容姿においては数段劣っているように見えてしまうのだ。だが、祐太はつゆもそんなことは知らない。


「まぁ、そうだよな。お前って勉強しか頭にないしな」


 祐太は納得した様子でウンウンと首を縦に振っていた。そして彼は話題を変えた。


「それより、今週の土曜空いてるか?」


 祐太は何かを期待しているかのように、目を輝かせながらシンイチの方を見てくる。


「ん? どうせ暇だから大丈夫だけど」

「良かったー!じゃあ、俺の家に来てくれよ」


 祐太は嬉しそうにそう言った。


「分かったけど、なんかあるの?」


 シンイチは疑問に思い祐太に質問してみた。


「まぁ、それは当日になってからのお楽しみだ」


 祐太はイタズラっぽい笑みを浮かべていた。なんだか嫌な予感がする……。まぁ、いっか。どうせ予定なんて特になかったわけだし……。シンイチは祐太の家に行くことを承諾することにした。


「よし、決まりだな!」


 祐太は満面の笑みを浮かべていた。本当にこいつは何を考えているか分からない。まぁ、悪い奴じゃないんだけど……。


「あ、そうそう。あともう1人来るからよろしく」


 祐太は思い出したように言った。


「え、誰が来るの?」

「まぁ、来てからのお楽しみだ」


 祐太はそう言ってニヤッとした。


「はいはい……」


 シンイチは呆れながら返事をした。それからしばらく雑談をしているとチャイムが鳴って、先生が入ってきた。シンイチは机に広げていた問題集とノートを閉じて前を向く。


「起立!」


 学級委員長の声と共に、みんなは椅子を引いて立ち上がった。そして、いつものように朝の挨拶をする。


「今日はこのクラスに転入生がいる」


 担任の佐藤隆先生は唐突にそう言った。その瞬間、教室内がざわついた。


「入っていいぞ」


 佐藤先生はそう言うと、教室の外に向かって手招きをした。教室内は一気に静まり返った。そしてゆっくりと扉が開く。そこには見慣れた顔があった。


「ヘレーネ!?」


 思わず声に出してしまった。そう、そこにはヘレーネ・ルイス・クリスタルがいたのだ。彼女はニコニコしながらシンイチに手を振っている。シンイチは呆然と立ち尽くしていた。クラスメイトたちは「なにあの子、かわすぎる」とか「外国人なのかな」とか、騒々しい。


「はい、静かに。では続けて入ってこい」


 そして、シンイチは目を疑った。ヘレーネに続いてエル、そしてリリスまでもが入ってきたのだ。さらにはその後ろでクスクスしているスーツ姿の女神エリスもいた。


「おい、どういうことだ? 説明しろよ」


 祐太は小声で僕に話しかける。


「あの、べっぴんさんたちとお前、知り合いなのか?」


 祐太は興奮気味で早口になっていた。


「いや、ちょっと待って。僕もいろいろ聞きたいことがあるんだけど……とりあえず今は先生の話を聞こう」


 シンイチは冷静になって祐太にそう言い聞かせた。祐太は渋々了承した。静かになったシンイチと祐太を見てから先生が続ける。


「えー、この度この三人の生徒が私達のクラスの新しいメンバーになります。そして、英語の特別教師としてエリスさんを迎えたいと思います」


 三美神と会ったあの日から二週間が経った夏休み明けに、シンイチのクラスに三人の転入生がやってきた。彼女たちは他でもないシンイチが異世界で従えた少女たちだった。

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