第38話
キスは別にしたことがないわけではない。
けれど、心の中にはいつも別の人がいた。
ちゃんとしたキスなんて知らない。
このキスだって…そうだ。
終わったはずの恋にまだしがみついていて、
まだ、心にはあきちゃんがいる。
君が好きだなんて言えないキス。
罪悪感を埋めるためだけのもの。
数秒重なった唇がまた静かに離れて、同時に右の頬にあった手も離れた。
目をゆっくりと開ける。
あきちゃんにそっくりなその人は複雑そうな、けれど笑みを浮かべていた。
「俺と、恋できそう?」
「…」
ー無理、だよ。
貴方が似すぎている。
もし貴方と恋に落ちても、辛い想いをすることは分かっている。
「…ごめんなさい…」
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