第53話

「だから言ったじゃないですか?一目惚れだって…」


「へ」


「その顔、信じてないですね」


好き?


私を?


窓を見るそのむすっとした顔が赤みを帯びている。


なんで?どうして?


「どうして…?」


「好きになることに、理由が入りますか?」


「え…、あ…」


「好きになってしまったから、しょうがないんですよ」


口がぱくぱく動くのに声が出ない。


そんな、ストレートに気持ちをぶつけられるなんて、いつ以来だろう。


いや、そんなに遠い日ではなかった。


だけど、それが信じられなくて逃げてきた。


私なんか、って思っていたから。

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