上位クランのタンクが抜けると言った時のメンバーの反応
蒼色ノ狐
メンバーの反応 表
「このクランを抜けようと思っているんだ」
そう切り出した瞬間、さっきまで賑やかだったメンバーの動きが止まった。
誰もが信じられないようなものを見る目で俺を見つめている。
もう少しタイミングを見計らえば良かったと思っていると、ある少女が乾いた笑いを出しながら肩を叩いて来る。
「や、やあねアーノルド。そう言う冗談は笑えないわよ?」
「……本気だ」
その腕を払いながら、俺は冗談である事を否定する。
するとさっきまで笑っていた少女は目に涙を溜めながら、今度は大声で怒鳴り始める。
「どうしてよ! 訳を言いなさいよ訳を!」
「ちょ! エレナ! ここ酒場!」
周りがざわざわとこっちの様子を窺っているのを見て、俺は必死にエレナを落ち着かせようとする。
—―天才魔法少女 エレナ
攻撃魔法も回復魔法も、あらゆる魔法を扱う事が出来る正しく天才と言える魔法使い。
さらには赤毛の三つ編みがトレードマークの美少女なのだから、目立つ事この上ない。
その後もヒステリックに騒ぎ立てるエレナをどうにか落ち着かせると、今度は腕をガシッと掴まれる。
「……抜けないで」
—―シーフの女王 クズノハ
戦闘技術もさることながら、その手で解除できないトラップは無いと言われるほどの腕前。
長い黒髪をポニーテールにしている美少女で、無口でクールな立ち振る舞いからファンも多い。
そんなクズノハが涙を堪えながら引き留めようとする姿に、思わず気持ちが揺れ動く。
「アーノルドさん。訳をおしゃってください」
—―神弓 ヴィクトリア
普段おっとりとした彼女すら、何かを堪えたように訳を聞いて来る。
とある貴族の令嬢で、金髪のセミロングを揺らしながら歩く姿にすら気品がある。
親衛隊と言う名のファンクラブまで発足するほど人気がある。
三者三様に俺を追い詰めてくるが、それを救うように手を叩く人物がいた。
「みんな、ここはアーノルドの話を聞いてあげよう? 引き留めるのはそれからでもいいでしょ?」
—―戦乙女 ヒルデ
その剣の腕は世界でも並ぶ者がいないと言われ、輝く銀髪をなびかせて戦う姿に魅了される者も数多い。
リーダー役である彼女のその言葉によって、皆も落ち着きを取り戻し始めたのか各々席へと戻る。
それに安堵すると同時に、これから説明しなければならないと思うと気が重い。
「……さあアーノルド、聞かせてくれない? どうして抜けたいなんて言い始めたのか」
優しい口調ではあるが、その目には逃がさないとハッキリ書かれている。
その威圧感に観念して、俺は理由を説明し始める。
「最初に言っておくと、このクランが嫌になった訳じゃない。唯一の男である俺に、みんな分け隔てなく接してくれて感謝してる」
「だったらどうして!」
「エレナ」
エレナが再び大声を上げるが、ヒルデのその一言で冷静さを取り戻す。
「……だからこそ俺は、自分が一番弱い事に耐えられない」
俺の役割はタンク。
つまりは敵からの攻撃を引き付けるのが役目だ。
隙があれば攻撃にも回るが、当然その回数は他のメンバーより少ない。
最前線に立つので装備もかなり良いものを回してもらっている事実も、罪悪感に拍車をかける。
「このまま現状に甘えていればクランも、俺自身も駄目になる。……それが理由だ。承諾してくれないか?」
そう言って頭を下げると、全員から一斉に返事が返ってくる。
「「「「駄目」」」」
「なっ!」
文句を言われる覚悟はしていたが、これほどノータイムで拒否されるとは思わず驚いてしまう。
戸惑っていると普段言葉数の少ないクズノハが饒舌に話し始める。
「私はアーノルドといるの、嫌じゃない。アーノルドの頑張りは皆知ってる。……だから駄目」
「そうよ! こっちは一言も迷惑だなんて思ってないだから、気にする必要なんて無いわよ!」
クズノハに続いてエレナも賛同し始めて、どう反論するべきか考えているとヴィクトリアが優しく微笑みながら説得してくる。
「アーノルドさんの事ですから、装備の件も気にしてらっしゃるのかも知れませんが問題ない事です。必要だからお金を使う、それは決して悪い事ではありません」
「そ、それは……」
段々と反論の材料が無くなってきて、崖っぷちに立たされる。
それに追い打ちをかけるように、ヒルデの唇が動き始める。
「アーノルドの事だからクランの評判も気にかけていたのだろうけど、必要ない。このメンバー誰が欠けてもこのクラン『シリウス』は成立しないだから」
「うっ」
言わなかった事実を見破られて思わず言葉に詰まってしまう。
シリウスの邪魔者、女を侍らせて満足してる男などなど。
多少は僻みも入っているだろうが、それでも俺をよく思っていない奴は多い。
それも理由であっただけに、何も言えないでいた。
「……それに、自分が邪魔者だなんて思わないで。ここまで一緒に頑張った幼馴染が居なくなるんて、私は嫌だ」
「ヒルデ……」
その言葉を受けて、俺は他のメンバーを見渡す。
誰一人として、俺を邪魔者としては見ていなかった。
「……悪かった。さっきの言葉は忘れてくれ」
俺のその言葉を待っていたと同時に、酒場も再び賑やかになっていく。
メンバーにも笑顔が戻ってきて、ようやく普段の雰囲気になってきた。
「じゃあ、あの誘いは断らないとな」
だが何気なく言ったその言葉によって、再びクラン全員の動きが止まる。
「?」
一体どうしたのかと思っていると、ヒルデが張りつけたような笑顔で聞いてくる。
「アーノルド。その言葉は一体どういう意味なのかな?」
「ああ。『ベガ』って言うクランに誘いを受けてたんだ。結成から日も浅いけど、見込みはあるからここを抜けたらそこに入るつもりだったんだよ」
「「「「……」」」」
「どうしたんだ皆?」
何か様子がおかしいと思って聞いてみるが、聞こえてないようである。
「……必要ないよ。それは私から断っておくから」
「え? いやでも」
「どれだけアーノルドが重要な存在か、一人でも多く知ってほしいからね。それに直接は断りずらいでしょ?」
「ま、まあそこまで言うなら……」
有無を言わせぬ雰囲気を感じて頷くと、さっきまでのが嘘みたいに何時もの光景に戻る。
(何だったんだ?)
そう思いながらも、俺はまたこのクランのメンバーと一緒にいれる事に喜びを感じていた。
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