第二十六章

 

 蔵王牧場に来た。さっきのアイスの牧場だ。ジャージー牛達が居る牧場で羊も居る。羊の毛はあんなにモフモフなのに意外と硬かった。あとちょっと汚れていた。あ、風評被害にならないように言うけど、羊の毛ってだいぶ汚れていて、それが普通なんだよ。外に居るし、毛を剃った後、それをしっかりと洗ってから製品化するんだ。だから汚れているからって動物虐待ではないんだよ。メタ発言だけど作者まだロケハンしてないからこの牧場情報は那須の旅行した牧場なんだけどね。

 「見て、カピパラ居るよ」

 「ホントだ」

 カピパラも毛が意外と硬い動物だった。あと、歯が鋭いから餌やりは長いニンジンを与えて、最後は離す。噛まれると痛いから折というか小さな低い塀の中に入るには飼育員さんが居るときしか入れない。色口も脱走防止で二重になっている。中は池があって、少し小高くなっている場所には温泉が流れる。

 冬はカピパラが温泉に浸かっている。夏は井戸水で涼を取る。

 ここは井戸水が動物たちの飲水になっている。餌は草食動物なら牧場内の牧草。客を入れる牧場の他にも牧草用の農地がある。牧場によっては牧草農家と契約して定期的に買っている。あまり知られてないけど、牧場動物用の餌を、例えばとうもろこしとか、乳牛用の牧草とか育てている農家も居る。それだけが専業ではない農家がほとんどだけど、例えば出荷で市場に余った野菜を牧場や動物園に売ったり上げたりする。人が食べる動物もこの農家さんのお世話になっている。

 それ以外にもコンビニやスーパーで廃棄になった食材を腐る前に発酵させて、小麦やトウモロコシの粉末に混ぜたりして牛たちに上げたりする。

 廃棄が問題とか言うわけじゃないし、廃棄弁当を餌にすることへの一部の抵抗っもあるとは思うけど、腐っているわけではないし、大量消費社会で食べ物を粗末にするくらいならという考えもあるけど、日本人はもう少し食に対して、粗末にしないように生活するべきだと思う。

 「朋ちゃん、このアイス美味しいよ」

 「秋穂、さっきも食べたでしょ」

 「おばあちゃん、昼は食べましたよネタは辞めて」



 牧場では馬に乗った。

 馬は思ったよりも高くって、観光地用の硬めの手綱のお陰で(これが手綱で良いのか知らないけど)揺れが少し怖かった。でも、楽しかった。馬も優しい動物だからゆっくり揺れも少なくなるように歩いてくれた。もっと上級者になれば一人では知らせるコースもあるけど、あっちは年パス+三年以上の来牧者になる。

 「カップルで来られたんですか?」

 牧場の飼育員さんが言う。

 「ええ、ふ〜ふ(婦婦)で」

 「そうなんですね、私も女性と結婚しているんで、そうなのかなって」

 こういう時、お友達ですかと聞かれるから嬉しかった。

 日本が同性婚を認めて早いもので四年。

 江戸時代から同性武士と結婚するような国だったのに、平成はずっと遅れていた。

 「この子も女の子なんです」 

 そう言って馬を見る。名前はみずほらしい。

 「でも、動物は繁殖が目的で、子孫繁栄が目的だから同性愛者は少数ですけど」

 「ってことは居るんですね」

 「一応少数ですが居るらしいです。``カノボク``の作者が言っていました」

 彼女は小説をよく読むらしい。でも、私が物語作家なのは言わなかった。

 彼女が愛しているのはホモであってボクではないの作者は同性愛者は小説とかを生み出すことで子孫を残せない事への代償みたいに言っていた。記憶の中のことだから確かではないけど、そうなのかなとも思うしそうじゃないのかなとも思う。

 異性愛者でも同人誌書くし、ゲイでも同人誌を書く。

 でも、同性愛者が物語を生み出すのが多いんじゃないか説は面白いと思うし、救われる。でも、それだと動物界にも同性愛者が居ることへの説明にはならないし、そういうモヤモヤで『性別モナリザ』からヒントを得た自作物語”この世界の藍に憧れて”を書いてみたこともある。そして、それ以上によりシリアスに、よりセンシティブに、よりナイーブに書いたのが”性のない僕らを愛して”だけど、どちらも好きな性別で生きられる世界にしてみたのは、そう言うのが答えなんじゃないかと思う。物語上、主人公は女になったけど、そうじゃない選択肢もあの物語上の世界ではあることにした、手術をしないで好きな性別になるってのは、今の性別適合手術とは違って、本当にその性別に成ることだと思う。

 手術を受けた人の中には好きな性別に近くなったけど、好きな性別じゃないんじゃないかって思う人もいると思う。そういうのが解決するのって、こういう世界だと思うし、人がより進化したら、もしかしたらそういう未来にも成るんじゃないかって、ファンタジー寄りのSFにしてみたら、知り合いにも「SFみたいだね」って言われた。でもジャンルはライト文芸かなとは思っている。SFでも良いのかも。でも私のは気持ち面での願望のほうが多いから、文芸のほうが都合がいいのかも。

 SFだとSFファンが科学的じゃないと思う表現が多いから、もちろんまだSFファンからそういう指摘をもらったことはないけど、一応、気にしている。



 吹っ切れた気では居たけど、やっぱり気になる。

 だからそういう物語を書いているって伝えたかったのかも知れない。好きな性別になれる、生きられるってのは本当にそれが私の中での答えなのかも知れないけど、でも秋穂が好きでも男になれる気はしないし、秋穂に男になって欲しい願望もまったくない。だから藍の世界でも私はわたしの願望は叶えられないと思うし、確信している。だからもしあの世界に生まれたら性別のないまま、私はおとなになるのだと思う。ただ、言いたいことは、今言えることは、私は秋穂が好きな同性愛者として生まれた、同性愛者という性別なんだと思うから、そういう性別でこれからも生きたい。

 子どもが生まれなくとも良い、生めなくとも良い、でも、そういうのが理由で秋穂と離れるのは嫌だ。多分、これが応えだ。

 

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