第16話「東の生物部」

自然教室が終わって、数日後。

まだ俺が見た夢は思い出せないが、もうそんなのどうでもよかった。

ライフセービング部のみんなに心配をかけたくなかったから。

_放課後、廊下を歩いていると丁度会いたかった人にあった。


「…どうしたの?」


亮平さんから「これを夜月に渡して欲しい。」となにか書類を貰ったのでちょうど廊下を歩いていた光先輩には感謝だ。


「これ亮平さんから。」

「あら、わざわざありがとう。」

「どっか行くんですか?」

「今から部室に向かう予定よ。」

「そういえば何部なんですか?」

「生物部ね。虫は苦手だけど」


話していると奥からなにか走る音が聞こえる。


「ここにいたのかメロン!!勝手に逃げ出しちゃダメでしょ!」

?どうしたのよ」

「夜月さん?ああ、メロンが逃げ出しちゃってさ。この人は知り合い?」


メロン…というのは手に乗っている亀の名前だろう。

「綾くん」と呼ばれたメガネをかけた、いかにも頭が良さそうな先輩がこちらを見つめる。


「後輩よ。」

「そっか、僕はあずま りょう!夜月さんと同じ2年生だよ。生物部の部長やってるんだ!」

「あ、伊澄侑っていいます。」

「伊澄くんね!良かったら部室来てよ」

「えっ?」

「おいでおいで!」


半強制的につれてこられ、部室に入る。

はいった瞬間、あったかい空気が俺を包み込んだ。


虫、虫、虫、トカゲ、虫、ヤモリ…


見たことない種類や見慣れた種類がずらりと並ぶ。

生物部の部費の金額、やばいんだろうな…

綾先輩はカメをケースの中にしまい、他のケースに手を添えた。


「伊澄くんヘビ持ってみる?」

「いいいいいやいいですやめてください」

「かわいいのに…ねー?」


綾先輩は「おいで」と声をかけながら、頼んでもいないのにヘビを取り出して、


「この子はボールパイソンっていう種類で、名前はミルク。真っ白でかわいいでしょ?」

「そっすね」

「反応薄いね…まあそうか」

「なんかすごいうるさいんすけど」

「ああ、クビキリギスのシロツメクサちゃんだね!このまえ捕まえたんだ!」

「捕まえた瞬間に名前付けてたわよね…」


すごい部室だな…と周りを見渡しているとノートを見つけた。


「綾先輩、これは?」

「部員のみんなで回してる観察日記だよ。部長の僕がコメント書いたりする。もちろん僕も日記をかくけどね。最近みんな一言で済ましてきてさ〜、僕この子たちのこと毎日知りたいのに…ちゃんとたくさん書いてくれるのは夜月さんだけだよぉ」

「綾は毎回赤でコメントを残してくれるからほぼそれが楽しみで…あっ!!聞かなかったことにしてっ!!!」

「どうしたの夜月さん!!??」


ああ、察した。

まえまえから光先輩は絵に描いたようなツンデレだと思っていた。

もしこれが2次元の世界なら…光先輩は確定で好きだ。

で、しかも綾先輩は鈍感男子と見た。


予言する。この二人は


光先輩は顔を真っ赤にしたまま咳払いして


「そういえば今日私たち以外に誰もいないわね、全員サボりかしら…」

「正直、まともにやってるのは僕と夜月さんだけ。みんな、とりあえず楽そうな部活に入っておこうっていう魂胆だろうね。悲しいね、いちご」


そう言いながら、綾先輩はまっかな金魚にエサをあげた。

そしてエサをおいて、


「今日は誰も来ないなら健康と餌チェック、温度調節で終わりかなー、みんなこんなにも可愛いのになぁ」

「侑くん、あんた今日部活ある?」

「いや、ないです。」


今日は怜が稽古に、甘楽が兄弟から勧められたサッカーのクラブ見学、あと夜子が歯医者……、華麗にみんなの予定が重なりまくって部活ができなかった。


「そっか!じゃあ一緒に帰ろうよ!」


綾先輩はミルクと呼ばれた白いヘビと観察日記を片手に俺に笑いかけて、部室の奥に走っていった。


「えっと…なにしに…」

「さっき言ってたでしょ、健康とエサチェックしに行ったのよ。あとミルクをケージに戻すのよ。」



しばらくして、無事にチェックも終わったらしく、俺らは帰路をゆっくり歩いていた。…が、綾先輩は浮かない顔をしていた。


「どうしたの綾くん?」

「夜月さん、アズキがいなかったんだ…。昨日はいたはずなのに…。」

「アズキ?」

「ニシアフリカトカゲモドキっていう種類で…」

「そっから話すんじゃないわよ!5時間話す気?!」

「あぁごめん僕としたことが!!」


光先輩に怒られた綾先輩はメガネを直しながらたち直して、


「アズキはそのニシアフリカトカゲモドキの名前。で、その子がいなくなっちゃったんだ。あの子すぐ脱走するクセあったからまたかなぁ。でも部室のどこ探してもいなくて…」

「もしかしたら校内で暴れ回ってるのかしらね…それにしても心配ね…。」

「うわぁ〜っ!どうしようっ!!」


なるほど…迷子か…。

それにしても名前から小さそうだし、見つけるの相当難しいんじゃな…い…か…。

俺らの後ろに大きい影がたつ。影からわかる。それは人間でも車の影でもない、見たことの無い形をした影だ。

恐る恐る、後ろを振り返ってみると異様なデカさのトカゲ?がそこにいた。


「…り、綾先輩…。もしかして、これがアズキ…ですか?」

「え?!アズ………、キ…?」

「な、なんでこんな大きくなって…?!」


綾先輩は一瞬嬉しそうな顔を見せたが、巨大なトカゲ?を見た途端笑顔が消えた。笑顔が消えたあとは、恐怖を覚えた顔と言うよりも混乱した表情をしていた。

光先輩は綾先輩の後ろに逃げ、怯えている。


「え?!えぇ?!!アズキ?!アズキなんだよね?!いやアズキだ!!なんで!?なんでこんな!?もしかして急成長?!僕でも知らない生物の秘密が!!?」

「そ、そんなわけないでしょ!?たしかにアズキだけどこれはおかしい…」


アズキは…どうやら普段はこんな大きくないらしい…。

じゃあこのでかい化け物はなんなんだ…??

すると、アズキ?は綾先輩めがけて動き出した。


「綾先輩ッ!!?」


まずい、綾先輩が踏み潰されてしま___





「『凍結』ッ!!」





か、身体が動けない…。アズキも、綾先輩も動いてない…。…と、時が止まった?

いや…光先輩動いて……、もしかしてこれが…?


「…こ、ここからどうすればいいのかしら。………とりあえず2人を端に避けさせればいいわね…。」


光先輩は俺と綾先輩を押して、アズキが踏まない位置に俺らを避けた。

避けさせ終わったあと、光先輩はアズキの方をゆらりと見て、


「…これ、能力の仕業ね。この世界において、それ以外有り得ないもの。綾くんには色々バレちゃうけど、命が助かるなら軽いものね。」


…光先輩自身もわかってるのか。ってこと…。


「…私にはどうしようもできないわ。もし敵の能力が物の姿や大きさを変えられるなら、私の能力じゃ弱すぎるもの。……どうして、この界隈はこうなのかしら…。」


光先輩が、そう言い終わると時がまた動き出した。

俺は完全に走り出すフォームを取っていたため、大幅に転けた。


「…夜月さん、今の」

「話はあと、アズキをどうにかしなきゃ…、原因を潰さないと_」



「いや、その必要はねぇ。」


どこからともなく、知ってる声が聞こえた。

聞こえた途端、目の前でアズキが失神したように倒れる。

声の正体は…、


「夜月、帰ったらちゃんと書類に目通しとけ。」


高野たかの 亮平りょうへい


「高野刑事!?なんでここにいるのよ!!」

「そんなんどうでもいいだろ。はぁ、こりゃまためんどくせぇことに巻き込まれたなぁ、少年。能力開花はしなかったか。まあその方がいい。」

「えっ?誰?能力開花??なにそれ?」

「俺は高野亮平。刑事だ。よろしくな少年。能力の話は、機密情報だ。口を漏らすなよ。」

「え…っと、は、はい…?」


彼は、「能力開花はしてない」と話したはずだが、亮平さんは少し悩ましそうに綾先輩を睨んだ。

それに気づいてなかったのか、混乱していた綾先輩は、違う!と頭を横に降って


「アズキは普通の倒れ方じゃなかったですよ!?一体アズキになにを!?」

「なに、麻酔を打ち込んだだけだ。」

「ま、麻酔…!?」


亮平さんは、麻酔銃であろう小型の銃を綾先輩に見せつけた。


「これはに作ってもらった、特別な麻酔。本当は人間に使う用だが、まさかこんなデケェ生き物にも使えんだな。」

「こ、殺したとかは…!?してない…ですよね…!?」

「してない。生きてるだろ。麻酔だぞ。死んでたら俺じゃなくてこの麻酔開発したやつとアズキとやらをでかくした本人を恨め。な?」


そういって亮平さんは小型の麻酔銃をなぜか裏道の方に向けて発砲した。

ウッ、という声とともに、知らない男性が倒れて壁から顔を出した。


「元凶はこいつ。適当に生き物をでかくさせて遊んでたんだろう。あとでシメとく。」

「あ、アズキは戻るんですか?」

「元凶の男は昏睡状態。必然的に能力も解除される。そのアズキとやらは数分もすれば後に戻るぞ。」

「よ、よかったぁ…ありがとうございます!」

「あとお前、名前はなんて言うんだ?能力のこと知られちゃァ、こっちも困る。把握しておかないとな。」

「あ、東 綾です…。」

「そうか。東。……ここも人通りは少ないな。まあいいか、話しても。」

「随分雑ね…、どこで聞かれてるのかも分からないのに」


機密情報と何回も言っておきながら、扱いが雑だな…能力の…。

それはここにいる亮平さん以外の全員が思ったことだろう…。


「まぁ、有村ほどの天才ハッカーでもなけりゃ無理だろ。聞かれる前に俺が麻酔でシメる。俺の能力は『虚言摘発』。人の考えてることとか詳細が分かる。だからひとつでも情報が増えてりゃ、他に誰かいるっつー事だ。」


そ、それなら安心なのか…?


「人によって能力って違うんですか?」

「違う。そこの伊澄は嘘を見抜く能力だ。『慧眼えげん』という名を持つ。で、お前の彼女の夜月は時を止める能力。『凍結』という名を持つ。」

「かっ…!!まだ彼女じゃないわよ!!!余計なこと言わないでちょうだい!!」

「夜月さん落ち着いてーっ!!?」


もう彼女みたいなものだろ。なんだこのバカップルは。そろそろ見てて腹が立つな。

亮平さんは軽くため息をついて話を続けた。


「能力はその人の人間性に影響する。お前ら2人の何が影響されたかは分からん。俺は多分仕事柄だ。」

「うーん、よくわかんないですけど…、さっき僕がアズキにふまれそうになったところを見たんですよね?だから僕に能力開花はしなかったかとか聞いてきたんですよね?」

「ああ。それがどうした。」

「もしかして、この能力開花の条件って自身の身に危ないことが起きたら…ですかね?面白い!近代のホモ・サピエンスはそんなことも有り得るんだね!!なんで僕に起きなかったんだろう!?」

「…夜月、こいつ」

「綾くんは生粋の生物オタよ。」

「そうか……」

「ゴギブリを素手で捕まえて窓から逃がしたこともあるわ。」

「……すげぇな…。」

「高野さん、もしかしてゴギブリを気持ちの悪い存在だとお思いで?たしかに彼は厄介だね!人類のほとんどが彼を嫌っているだろう。気持ちもわかるさ!無駄に足が早くて更に飛行能力まで付いていて繁殖力も生命力も高い。しかも噛む力もつよいんだよ彼は!いくらハイスペックでもビジュアルもなにもかもが気持ち悪い彼が人類に好かれるまで時間はかかるかもしれない。でも彼は自然を守るために大事な役割を担っているんだよ。彼は爬虫類たちの餌にもなるし雑食性だから生き物もの死体を食べて土に返すんだ。しかも薬品開発にも役立つ。ゴキブリは3億年以上歴史が続いている生きた化石でね、いずれゴキブリが人類を乗っ取るのではないかと言われているよ。それでも無理なものは無理?別に好きになれと無理強いしてるわけじゃないさ!ゴキブリについて解説しただけだ。たしかに僕は素手で捕まえられるけど他の人はそう簡単にいかないよねぇ。そうだ、実は爬虫類たちの餌用にレッドローチを飼っているんだ!実際の名前はトルキスタンゴキブリ。レッドローチは北東アフリカから中央アジアの温帯から亜熱帯、北アメリカに生息してしていてね、寿命は約1年、日本では見つかりにくいし見つかったとしてもほとんど養殖されたやつかもしれないね。チャバネゴキブリとよく似ているけど全くの別物さ。他には…そうだ、綺麗なゴキブリとかもいるんだよグリーンバナナローチとか…あ、そうだあと……」


な、何が起きている…?まて、何がトリガーになってこんなゴキブリについて話されてるんだ……!?!

やばいぞ、止めないとこのまま…、まじで1時間くらい喋るぞ…!!


「綾くん、別に長々話されても気にしないけどいくらなんでもゴキブリの解説はキモすぎるわよ…」

「えっ?!そう?!す、すみません……」

「…………」

「ほ、ほら2人の精気なくなってるじゃない!!」

「うわー!!!僕ったらつい!!すみませんすみません!!!」

「いい?!2人ともよく聞きなさい!!今後綾くんに生き物の話は振っちゃダメよ!!特に虫!!」

「肝に銘じておきます…」


すると、綾先輩は思い出したように、アズキがいた方向へ歩き出して、アズキを手のひらに乗せた。


「も、戻ってる〜!よかった…よかったよアズキ…」

「アズキ、どうするんですか」

「今日一日は僕が家で面倒見るよ。大丈夫他の子も飼ってるから」

「それなら安心ですね…」


フリーズしていた亮平さんが、やっと動き出して口を開く。


「まあ…こいつなら信頼出来るな…。今後ともよろしく。東。」

「え?は、はい!」


綾先輩は、アズキが戻った嬉しさであろう。

満点の笑顔で答えた。



『ふ、ふふ…天才ハッカー…俺…、天才ハッカー…!!ふふ…』



俺の携帯から智早さんの声が聞こえた気がした…が、気のせいだろう。

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