第24話 彼女と配信


(ノエル、いなくなる気配が、全くないな)

 

 一方、部屋の中で、玄関先の会話に耳を傾けていたルイスは、ノエルが家主を待つことにしたと気付き、戦慄していた。

 

 何とか追い返したかったが、口も塞がれ、縛られているこの状況では、どうすることもできなかった。

 

 そして、探偵として、数々の難事件を解決へと導いてきたくせに、可愛い我が子の危機には、全く役に立たない自分に嫌気がさす。

 

 というか、ノエルの方も M・チューブとか見てる場合ではないから!


 もう少ししたら、帰ってくるんだよ!

 誘拐犯が!!


 それに、気になることは、それだけじゃなかった。


(……一緒にいる女の子は、ノエルのお友達かな?)


 独特な、お嬢様言葉を話す女の子だった。


 しかも、どこかで聞いたことがある口調だ。

 どこで聞いたかは、ちょっと思い出せないのだが……


 そして、お友達というには、親密すぎる感じがして、聞いてはいけないものをきいている気分になる。


 もしかして隣の女の子は、ノエルの彼女なのだろうか??


(……中学生で、もう彼女が?)


 親として、ちょっと複雑な心境になる。


 いや、今どき、中学生でも恋人がいるのは、そう珍しくはない。

 そして、仮に彼女だったとしても、仲睦まじいのは、とても素晴らしいことだ。


 それにノエルは、親に似て可愛い顔をしているし、なんだかんだモテそうだから、すぐに彼女くらいできそう。


 そして、そうなのだとしたら、彼女が、どんな子なのか気になってきた。


 声は可愛らしい。

 口調も丁寧だ。 

 しかし、顔が分からない。


 無理もない。今は、声しかきこえないのだから──


(ノエルの好きな子って、どんな感じの子なんだろう?)


 つい気になってしまうのは、やはり親だからか?

 

 だが、今は、息子の恋愛関係を気にしている場合じゃない。


 男が、いつ帰宅するか分からない以上、早急に手を打たねばと、ルイスは思考を切り替える。


 だが、しっかり締め付けられた縄はビクともせず、かといって、椅子を破壊できるほどの怪力さもなかった。


(……ここを無事に出られたら、ちょっと筋トレを始めてみようかな)


 ルイスは、そんなことを考えながら、口元に貼られたガムテープをはがす作業に移った。



 *


 *


 *



「ルージュの従兄弟って、面白い人だな」


 動画サイトを見ながら、ノエルとルージュは、家主を待っていた。


 あれから、どれくらいだっただろう?

 多分、10分ぐらいだ。

 動画の時間が、ちょうどそのぐらいだから。

 

 そして、ノエルは、ルージュの従兄弟であるお兄さんの動画を見て『なんだか、ほっとけない人だな』と思った。

 

 年齢は自分より上なのに、ちょっと頼りないというか、可愛らしいというか?


『みんなー、スパ茶ありがとうー! でも、俺は情報が欲しいんだよー! ルイス様のこと何かしらない!?』


 ほぼ半泣き状態の声が、仮面から流れる。


 声は、とてもイケボなのだが、中身がちょっと残念な人だった。


 そして、スパ茶と言われる投げ銭が大量に投入されているにも関わらず、ルイスに関する情報は、ほとんど来ず。


 これは、役に立ってるのか、立ってないのか?


「お兄様、いつもこんな感じなんです。通常は、ゲーム配信をしているのですが、これまで一度もゲームをしたことがないから、操作が雑魚すぎて。でも、それが逆に笑いを誘ってるようで、見てると癒される―って、男女問わず人気ですのよ?」


「そうなのか。でも、確かに、癒されるというか、捨てられた子犬っぽさがあるよな」


「そうなんです! でも、これで次期社長なんですよ! うちのグループは大丈夫かしら?」


「え! 社長になるの!?」


「はい」


「そうなんだ。てっきり、ルージュが継ぐんだと思ってた」


「まぁ、わたくしもお手伝いはしますが、全責任を負うのは、お兄様ですわ。だから、わたくしは、好き放題できて、とても自由ですのよ! 結婚相手だって、好きに決めてもよろしくってよ」


「へー……」


 ぽっと頬を赤らめたルージュ。それを見て、ノエルは眉を顰めた。


 まさか、好きに決めていいから、15歳も年の離れたルイスと結婚したいとか言わないよな?


 いっとくけど、あいつ、隠し子いるんだけど!

 しかも、その隠し子、俺なんだけど!


(ダメだ……ルイスはやめとけ!って、めちゃくちゃ言いたいけど、言えない!!)

 

 大事な幼馴染が、無謀な恋に踏み込もうとしている。

 そして、見ていることしかできないノエルは、とても歯がゆい気持ちになる。

  

 だが、その時だった。


 ――ザシュ。

 

 どこからか足音が聞こえた。

 

 コツコツという軽快な音ではなく、スニーカーをするような鈍い音。

 

 そして、その音の方へ目を向ければ、そこには、24~5歳くらいの男性が立っていた。


 

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