第41話 明日の予定

「……はぁ」

 天気のいい朝、俺はちょっとだけ落ち込んだ気分で学校までの道のりを歩く。


 その理由は、えっと、その……亜理紗におはようのぎゅーといってきますのぎゅーを拒否されたからである。

 いや、わかってるよ、そりゃしない方が健全ってのはわかってるよ。高校生カップルとしてはしない方が健全ってことはちゃんとわかってますよ!


 でも、その……なんか寂しいじゃん。

 昨日の買い物終わりくらいからなんか微妙に避けられてるような気もするし、その……ちょっとだけ寂しいっていうかもやもや、してる感じです。そんな感じ。


「……んんっ!」

 まあ、そんな事考えててもしょうがない。

 別に全部避けられてるわけじゃないし、今日もお弁当作ってくれたし、美味しい美味しい亜理紗の愛妻弁当があるわけだし!


 学校でも家でもずっと一緒なんだもん、たまには離れたいときもあるはず……そういう事にして今日も頑張ろう!!!

「よし、頑張ろう!!!」


「ふふっ、今日も気合入ってるね、日向君」

 ほっぺをぱんぱん叩いて気合を入れていると、後ろから聞きなじみのある声が聞こえる。


「あ、おはよう美樹。聞いてた?」


「うん、しっかり」


「はは、そっか……ふふっ」

 ちょっとこの場面見られてたの恥ずかしいな。

 いや、まあ幼馴染だから慣れっこと言えばそうなんだけど……ふふっ。


「あ、そうだ日向君……これ!」

 俺の方を見て楽しそうに笑っていた美樹が、急に何かを思い出したようにカバンに手を入れると、小さな袋を渡してくる。


「ん、なにこれ?」


「く、クッキー! 昨日焼いたの、日向君のために!!! 日向君のために、昨日私が焼いたんだよ!!!」

 少し顔を赤くしながら、そう言ってぐいぐいと押し付けるようにクッキー入りの袋を渡してくる美樹。


 あらあら、確かにクッキーの甘くていい匂いが……ふふっ。

「ありがと、美樹。でもなんかあったっけ、今日?」


「あ、いや、別に。何もないんだけど……そ、それより日向君! クッキー、食べてくれない、今!!!」


「え、今? いや登校中だし、朝ごはん食べたばっかりだし。またお昼とかに食べて感想言うよ」


「だ、ダメ! 今! 今すぐ! 今すぐ日向君の感想聞きたいの!」

 懇願するような声と、求めてくるような目線で。

 なんというかこんなわがまま(って言ってもちょっとだけど)な美樹久しぶりに見たな、小学生の時以来かも……ふふっ。


「わかったよ、美樹。今すぐ食べるよ、美樹の手作りクッキー」

 まぁこんだけ言われたらさすがに答えるしかないわな。

 美樹の手作りクッキー、ありがたくいただくよ。


「ど、どうかな? 日向君、美味しい?」

 そう思って一つ手に取り口に含むと、少しだけ顔の赤い美樹が期待と不安の入り混じったようなドキドキしたような顔で僕の方を見てくる。


 そりゃもう、もちろん

「美味しいよ、美樹。甘さも俺好みで最高。ありがとね、美樹」

 美味しいでしょ、こんなの。

 さすが幼馴染、俺の好みをわかってる。


 俺の言葉に、美樹はほっと胸をなでおろしながら

「よかったぁ、日向君に喜んでもらえて! 本当に作った甲斐があったってもんだよ、良かったぁ! ありがと、日向君!」


「ふふっ、それはこっちのセリフだけど。ありがとね、美樹」


「えへへ、どういたしまして! それじゃあさ、久しぶりに一緒に学校行こ、日向君! 話したい事、いっぱいあるんだよ、私!」


「わかったよ、美樹。幼馴染として聞いてあげます、美樹の話」


「うん! あ、そうだ、クッキー美味しいなら毎日作ってあげるよ、日向君のためなら!」


「毎日はいらないなぁ」

 嬉しそうな表情でにこにこ隣を歩く美樹に少し苦笑いしながら、僕は久しぶりに幼馴染と一緒に学校に向かった。



「……幼馴染かぁ」



 ☆


「ねぇ、日向! 明日暇?」

 お昼休み、やっぱりどこか様子のおかしい気がする亜理紗の反応にちょっとやきもきしていると、一緒にご飯を食べていた新が思い出したようにそう言う。

 明日は何かの振り替えで学校は休み、火曜だけど休日……亜理紗となんかしようと思ってたけど、このままじゃ暇になりそうだな。


「多分暇だけど何かあったの?」


「よかったぁ! それじゃあさ、僕とデートしてよ!」

 いたって真剣でまっすぐな目で。

 俺の方を見つめる新がはっきりした声でそう言って。


「……俺、そういう趣味ないんだけど」

 俺には亜理紗がいるし、ていうかその……どうしたんですか、新さん?

 たまに新が可愛い可愛い言われてるのは聞くけどそれに当てられた感じ? BL的なこと言われて浮かれた感じ?


「あ、違う違う! あってるんだけど違うんだ、日向の事好きとかそう言うのじゃなくて!!!」


「……それはそれで傷つくけど」


「いや好きだよ! 友達としては大好きだけど、ってそんな話じゃない! これこれ、これ見て、日向!」

 かなりあわあわ焦った日向がごそごそとカバンから一枚のチラシを取り出す。

 それは最近近所にできたカフェ?でいいのかわかんないけど、なんかスイーツの美味しいお店の広告。


「ほらここ見て、ここ! カップルで来店するとここのスイーツバイキング半額で食べられるんだって、ここに一緒に行こうよ!」

 そうウキウキ楽しそうな声で言う新。


「……それ俺じゃ無理じゃない?」

 男同士じゃん、完全に。

 無理でしょ、絶対に。


「あ、大丈夫! 僕女装するから! お姉ちゃんメイクさんだし、女装はお手の物だと思う!!!」


「なんでそんな覚悟きまってるんだよ、新……」

 女装しますじゃないでしょ、なんでそんなノリノリなんだよ。

 メイクさんのお姉さんもびっくりするでしょ、急に弟が女装したいなんて言ってきたら……ていうか。


「普通に華道部の友達と一緒に行けばいいんじゃない? ほら、部活女の子多いし、新も仲いいだろ?」

 なんなら一番女子率高いまであるだろ、華道部って。

 そこでいつも楽しくやってるんだし、その子と行けばいいのに。


「あ、いや、それは、その……」


「なんだよ、そんなにもごもごして。もしかして、俺と一緒じゃないと嫌って感じ?」


「あ、いやそれも違くて、あ、違うわけじゃないんだけど、そ、その……」


「ん?」


「お、女の子と一緒だったら本当のデートで、カップルになっちゃうから……そう言うのは、本当に好きな人とじゃないと」


「……可愛いかよ」

 不覚にもトキメキそうになったじゃねぇか、なんだその可愛い理由。



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