第32話 今は、これくらいだけど
「……別にいいじゃん。夜歩くの怖いし、さっきガサゴソ聞こえたし、それにひー君私の事、その……守ってくれるって言ってたし。だからえっと……ダメ、ですか?」
夜の帰り道、寄り添って歩いていた亜理紗が急に俺の手を握ってきて。
ギュッと俺の手を握ったまま、愛らしい上目遣いで。
暗闇の中でもわかるような赤いほっぺで……ふふっ、ダメなわけないじゃん!
「ダメなわけないよ、むしろ嬉しい……ふふっ、でも最近亜理紗なんだか積極的だね」
「えへへ、良かった……えへへ、積極的なのは別にいいじゃん」
蕩けたような声を出して俺の指に自分の指を絡ませて。
可愛い声とともに、恋人つなぎをするような形になって。
亜理紗の手の温もりとか、少し早い心臓の音とかが伝わってきて……なんか楽しいし嬉しいな。
これからバイト終わりに迎えに行く時もこんな感じで手を繋いで帰りたい、そう思うくらいに。
「……ねえひー君。ここからは私の独り言、ちっちゃな声だから聞かなくてもいいよ」
亜理紗の手の感触とか今の雰囲気とかを楽しんでいると亜理紗がそう呟く。
独り言って……急にどうしたの?
「……私ね、今日ずっとひー君の気分だったんだ。休み時間にひー君に遊びに行こ、って言われて嬉しくて楽しみで。ずっとひー君の事考えてて頭も身体もぽやぽやであんまり授業集中できなくて。ずっとひー君とどこに行こうかな、とかひー君と何しようかな、何食べようかなとか……そんな事ばっかりずっと考えてた。早く放課後になれ! ってずっと思ってた」
「……うん」
「……真衣と遊んだのももちろん楽しかったよ。もちろん楽しかったけど、やっぱりどこかでひー君の事考えちゃってた。ひー君今何してるかな、とか美味しい物食べてるかな、とか一人で寂しくないかな、とか……真衣ちゃんと遊んでる時もそんな事ばっかり考えちゃって。真衣と遊ぶの楽しいんだけど、でもやっぱりひー君と遊びたい気持ちがいっぱいあったから、ひー君と今日はずっと一緒だと思ってたから。だから……」
小さく、でも力強い声でそう言って。
少し湿った手でギュッとさらに強く握って。
「だから帰ってからお家ではひー君と一緒にいたい。家に帰って寝るまで色々お話したい、いっぱい遊びたい。もっとひー君と一緒にいたいって、もっといちゃいちゃしたいって……」
キューっと絞るような声が、でも残る声が暗闇の中聞こえて……ふふっ、亜理紗、亜理紗!
「ふふっ、亜理紗俺だって……」
「あ、独り言! 独り言だから! だから答えなくて大丈夫だよ!」
「あはは、そうだったね……それじゃあ俺も独り言! 俺も同じように亜理紗の事考えてたよ! 亜理紗楽しんでるかなとか、美味しいもの食べてるかな、とかまたデートするときここ来たいな、とか……そんな事考えてた。亜理紗と同じようにそんな事ばっかり考えてた」
「……にゃん」
「だからね、俺も亜理紗と一緒にいたい。亜理紗と一緒にアイス食べながら色々話したり、ゲームしたり……そう言う事、色々したい! 俺も亜理紗といちゃいちゃしたい! だから今日の夜は楽しもうね! 明日学校だからほどほどにだけど!」
「にゃ、ひ、ひー君……う、うん! うん、私も! 私も!!!」
俺の言葉に亜理紗はさらに強く俺の手を握って。
痛いくらいに握られた手がどこか心地よくて……そうだ、そろそろ良いかな?
「ねえ、亜理紗そろそろ良い? そろそろ聞いていい?」
「……それはまだ、ダメです」
「もう、なんで? もっと一緒にいたいって、いちゃいちゃしたいって……だからさ、そろそろ欲しいな、ちゃんとしたの。そっちの方がもっと色々できるよ、あーちゃん?」
「……そうだけど、まだダメなの。その、えっと……まだ、ダメなんです」
ぷいっと外を向いた亜理紗がそう言って。
手に伝わる鼓動はさらに速くなって、でもダメ……まあ、亜理紗に合わせるって決めたし、亜理紗のペースでいいって言ったし。
ここまでしてくれるんだからもう言ってほしい気持ちもあるけど、でも俺はいつまでも待つよ、亜理紗がちゃんと言えるようになるまで。
「ごめんね、ひー君……でもいやってわけじゃないからね」
「ふふっ、わかってる。ちゃんと感じてたから」
「あ、あれは落書きだよ……で、でも、その、ひー君……これが私の気持ちです。言葉ではまだ言えなけど、これが気持ちだから……だからひー君、私がちゃんと出来るまでもうちょっと待っててくれますか?」
そう言ってギュッと俺の方に身体を寄せてきて。
恥ずかしそうに顔を染めながら、ぴとっと俺の身体に自分の身体を引っ付けて。
「う、うん、もちろん! 待ってるよ、ずっと!」
だから俺も待ってる。亜理紗の事、ずっと待ってるよ!
「ありがと、ひー君……えへへ」
「あ、亜理紗、歩きにくい」
「……もうちょっとで家着くから、そこまでは……だって、もっとひー君感じたいから……」
その言葉とともにさらに身体を密着させてきて。
ぴとっとゼロ距離の亜理紗からはふにっと柔らかい感触とか、恥ずかしそうな荒い息とか、早い鼓動とか、ふんわり香るいい匂いとかがダイレクトに伝わってきて……ふふふっ。
「ねえ、亜理紗」
「ん?」
「俺今、凄く幸せ」
「……私も」
隣で幸せそうに身体を合わせる亜理紗を直に感じながら満天の星空の下、家につかないようにゆっくりとゆっくりと歩いた。
★★★
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