第18話 家族の話

「いやー、いいなぁ、娘が料理している姿は! お父さん、娘に料理作って貰うのが夢だったんだ、その夢がかなった感じ!」


「……何言ってんの、急に?」

 俺に3回コールドでボコボコにされた父さんがキッチンの方を見ながらしみじみとそう語る。

 急に何言ってんだか……それに娘なら姉ちゃんもいたじゃん。


「いやー、美月はそんなんじゃないじゃん。なんというか、その……野生児、みたいな。料理とかしてる記憶ないし、一人暮らしちゃんとしてるか心配。かなりずぼらな性格だし」


「姉ちゃんに酷いこと言うな、父さんも……まあ、嘘って否定しにくいんだけど」

 姉ちゃんは確かに野生児感だし、料理してた記憶はないけど。あっても暗黒物質ダークマターを作ってた記憶しかないくらいの現在宮崎在住のワイルドガールだけど。

 確かに一人暮らしはちょっと心配……まあどうせ、料理出来る彼氏かなんか捕まえてるんだろうけど。


「まあ、美月はそう言うのだし、自覚あるから怒んないよ……だからさ、父さんすごく嬉しいんだ! 娘が料理して、その料理を食べて、美味しい美味しいって褒めて、全員がハッピーになって……なんというか凄く幸せ。こういう何気ない日常が一番幸せで、父親としての喜びを感じるんだよな」

 しみじみとどこか遠くを見るように嬉しそうな顔で。

 今ある幸せを嚙みしめるように父さんはそう言って……柊木は実の娘ではないじゃん。


「そうだけどさ、今は一緒に住んでるし亜理紗ちゃんも娘みたいなもんだよ。それに日向が亜理紗ちゃんの事、父さんの本当に娘にしてくれるんだろ?」


「……何それ、どう言う事?」


「言った通りだけど? 日向が亜理紗ちゃんの事……ね?」


「……ふふっ、まだちょっと先の未来だけどね」

 ……ちょっとだけカッコイイと思ったじゃねえか、父さん! 

 そんなクソ真面目な顔で……応援してくれてるのは嬉しいけどちょっと腹立つ! ちょっとかっこいいこと言って応援してくれてるのが腹立つ!


「ふふふっ、言うじゃん日向。見せてほしいな、お父さんに二人の晴れ姿。そう遠くない未来にま……」


「ちょっと男ども~! 何の話してる~? 無駄話してるくらいならお料理の手伝いを少しでも考えてもいいんじゃないか~?」

 また真面目な顔で何かを話し出した父さんの声を遮るように母さんのこっちに対して少しだけ怒りを帯びたような声が聞こえる。

 

 ……ちょっとだけ、からかってみようかな。

「あ~、ごめん母さん! 父さんが『亜理紗ちゃんは可愛いな~! すっごく可愛いくてすごい!』だって 亜理紗ちゃんが可愛すぎてやばいって!」


「うんうん……ん? ちょっと日向? 父さんそんなこと一言も言って……」


「……変態、ロリコン! 亜理紗ちゃん隠れてロリコンの毒牙にかかる前に!」


「ちょっとお母さん!? 誤解だよ、誤解、僕そんなこと言ってない……ひなたぁ!?」


「ふんふふふ~ん♪」

 サッと警戒する顔で、でもどこかわかっているようにニヤニヤしながら柊木を隠す母さんに、わちゃわちゃと反撃しながら俺の方を睨む父さん……さっき少しあれだったから、俺ちょっとからかいました、すまん父さん! 後ダイブ自分の本心も入れた、亜理紗に可愛いってすごく言いたかったから! 亜理紗をほめたかったから、その……ごめん、父さん!


「ちょっと、お母さん! 誤解だよ、誤解! 亜理紗ちゃんも、おじさんそんなこと言ってないからね! そんな感じでは言ってないから!」


「ふふっ、どうだか……取りあえず、お父さんにはお料理手伝ってもらわないとね」


「え~、そげな~」


「文句言わないの……亜理紗ちゃんはあっちで日向と遊んでいていいよ。ていうか遊んであげて、日向が亜理紗ちゃんと一緒に居たがってるから」


「お、おばさん、そんなこと、ひ、日向は……は、はーい! 行ってきます!」

 キッチンに無理やり連れ込まれて行った父さんと入れ替わりに少し照れたような表情を浮かべる赤い顔の柊木がとことことこっちにやってくる。


 そしてソファに座る俺の隣に、エプロンを外しながらちょこんと可愛く座って。

「えへへ、やっぱりおじさんとおばさんは面白いね、でもその……こほん。ねえねえ、鮫島、おじさんと本当は何の話してたの?」


「ふふっ、嘘ってバレてたか……それは内緒」


「おばさんも私も一瞬で嘘ってわかったよ……それで本当は何の話してたの?」

 ニヤニヤしながらそう聞いてくる柊木……やっぱすぐにバレてたか。


「本当は柊木のご飯美味しいからずっと食べてたいな、って話してたんだ」

 ……でもまたちょっとだけ嘘をついた。

 別に本当の事言ってもいいんだけど……いきなり色々飛び越える気がして、まだ俺たちには解決すべき問題があるから。


「そっか、なんだか嬉しいな……私はいつでも料理作るよ。鮫島の家族が……日向が喜んでくれる限りね! 絶対絶対、美味しい料理、作ってあげるから!」


「……それは嬉しいな。これからもよろしくしていいかな?」


「うん! よろしく任されました!」

 少しほっぺを赤くしながら言った柊木に、俺もニコッと微笑み返す。

 夢も未来も、現実になりそうな予感がした。



「ね、ねぇ、鮫島……ちなみになんだけど、その、私と一緒に、居たい? 私と、一緒に居れると、嬉しい?」


「何その質問。居たいに決まってるじゃん」


「そ、即答……えへへ、じゃあ一緒に居る、鮫島と。私もその……えへへ、嬉し、すぎるから」

 そうやって恥ずかしそうにはにかみ、俺の肩に一瞬こてんと頭を当てる柊木。

 やっぱりそう、遠くない未来かもしれない。


「ちちちちなみに可愛い、ってのは」


「それも、その……本心、ですけど。お、俺の」


「え、あ、その……えへへ、嬉しいな、えへへ」





「……それであなた、本当はどんな話を?」


「日向と亜理紗ちゃん、結婚しないかー、って。そんな話」


「ふふっ、それは飛躍し過ぎよ……結婚してくれたら私たちも嬉しいけどね」



 ★★★

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