第13話 告白
「亜理紗、好きだ! ずっと亜理紗の隣にいたい、ずっと亜理紗と一緒にいたい! だから俺と付き合ってください!!!」
亜理紗の震える腕を掴んで。
目いっぱい息を吸って伝わるように、届くように。
「……」
しばらく沈黙の時間が流れる。
どちらも何も言わない空間に雨が地面に触れる音だけが妙に響く。
亜理紗の腕から伝わってくる熱さが、鼓動が少し息苦しくて、だから思いを止められなくて。
「亜理紗、好きだ。笑った顔が好き、都合悪い時に猫みたいになるのも好き、料理上手で家庭的なところも……」
「やめて、ひなた、やめて、やめて、ダメ、ダメ、ダメ……」
「猫舌のくせにラーメン大好きで苦戦しながらいつもはふはふする姿も、掃除だけ出来ないところも、初めて見るもの興味津々なところも、少し見栄っ張りなのに緊張しやすくて、すぐに助けを求めてくれるところも好き」
「ダメ、もうダメ、ダメ、日向」
「いつも気ままでふらふらしてるけど、でも恥ずかしがりの寂しがり屋で繊細で優しくて。何かあったらすぐ駆けつけてくれて、そばにいてくれて。そんな亜理紗が大好き、亜理紗の全部が大好き!!! 亜理紗とずっと一緒にいたい……恋人として亜理紗とずっと一緒にいたい! だから亜理紗俺と……」
「やめて、ひなたもうダメ、変になっちゃうおかしくなっちゃう……嬉しいのに、大好きなのに、変になっちゃう、もうやめてよ、ひなたぁ……」
俺の言葉を遮ってずっとそっぽを向いていた亜理紗がゆっくり俺の方を振り返る。
真っ赤に上気した顔は涙と雨でぐちゃぐちゃに濡れて、荒い息遣いは今にも沸騰しそうで。
「⋯⋯亜理紗?」
「私ね、おかしいの。少し前からおかしくて、昨日からもっと変になって……日向に一緒にいたいって言われてから、日向の家で一緒に住むってわかってからは特に……ずっとドキドキ止まらなくて、身体が熱くて、心臓が飛び出てぷかぷかどこかへ飛んで行っちゃいそうで」
「……」
「……いつもみたいにからかっても、いつも通り接しても全然ドキドキおさまらなくて、身体が沸騰しそうで、燃えちゃいそうに熱くて、でもゾクゾクしてふわぁーっ、てなって何も考えられなくて……今、大好きって言われて嬉しいのに、身体が止められなくて……大好きなのに、すごく嬉しいのに、おかしいの、私……」
「……亜理紗」
「……日向の名前呼ぶたびに、名前呼ばれるたびに身体が熱気球みたいにふわふわ浮いちゃいそうで、ぷかぷかして自分の身体じゃないみたいで……何も特別なことしてないのに日向の事意識するだけで、頭も、身体も、トロトロになっちゃって、何もできなくないのに……普通にしようと思ってるのに、普通ができなくて、こんなの初めて、今もずっと……好きなのに、好きだから……私おかしくなってるの、大好きなのに、嬉しいのに……日向の事、大好きなのに」
息も絶え絶えになりながら、びしょびしょに崩れて蕩けた顔で。
握って腕からは心臓の鼓動とか熱さが激しく伝わって。
「今朝も昨日の夜も、普通にしようと思ったのに、でも日向見ると頭が蕩けて、わかんなくなって……わかんないよ、私怖いよ……日向の事だい、すき……なのに、嬉しいのに、でも怖いよ……私も、日向に嫌われるのも全部全部怖いよ……」
「大丈夫、全部受け止める。言ったでしょ、亜理紗の全部が好きって……だからこんな事で嫌ったりしないよ。亜理紗の事大好きだから。だから亜理紗、俺と……」
「……嬉しい、嬉しいのに、大好きなのに……もし日向と一緒になって、一緒に住んで、大好きを形にして、もっともっと大好きになったら……私どうなるかわかんない、何しちゃうかもわかんないよ……ひなたが受け入れてくれるかもわかんない、壊れちゃうよ壊しちゃうよ……今だって、好きって言われただけで、大好きな日向に触れられてるだけで……こんなに熱くて、トロトロで……びしょびしょに濡れちゃってるんだもん」
「……亜理紗……」
蕩けた顔はどこか幸せそうにも嬉しそうにも見えて、でも悲しそうにも辛そうにも見えて。
加速する互いの心音が重ねって、でもほどけっていて……亜理紗、亜理紗!
「……今、ギュッとしないでよ……もう私、蕩けてふわーって、壊れて、燃えてなくなって……んん……んんん、んー! ……ハァ、ハァ……今は、もう……ダメ」
「……亜理紗、大丈夫! 俺は亜理紗を、どんな亜理紗でも……!」
「ひなた……ダメ、今は、もう……」
抱き着いた俺の腕からするりと抜け出して、雨の中を全力で走り出す。
「亜理紗、あり……うわっ!?」
追いかけようとしたけど、ぬかるみに足を取られて盛大に転んで。起き上がった時にはもう亜理紗は届かないくらい遠くに行っていて。
「亜理紗、好きだ! 大好きだ!!!」
もう遠くに行ってしまった亜理紗の影に叫ぶ。
届かないかもしれないけど、でももう一度、俺の気持ちを。
「……ひなた、私も……!」
くるっと振り返った亜理紗の声は雨に消されて、影も見えなくなっていった。
☆
「ただいまー」
「あ、日向おかえ……って日向あんたずぶ濡れじゃない! どうしたの、そんな濡れて!?」
家に帰ると心配した表情の母さんが出迎えてくれる。
「別に。雨降ってきたから濡れてるだけ……そうだ、柊木家住むって。お風呂湧いてる?」
「そ、そっか。湧いてる、お風呂は沸いてる。でも、日向、あんた……」
「何? あ、美樹がりんご美味しかったって言ってたよ。寒いからお風呂入ってくる」
「日向、ストップ日向!」
お風呂に行こうとした俺の足を母さんの厳しい顔と強い声がピタッと止める。
その横では父さんがすこすこと外に行こうとしていて。
「ちょっと父さん、外雨だよ。風邪ひくよ?」
「車だから平気!」
そう言ってそのまま外に出て……何かあるんだろうか、父さんは。
そして母さんも。
「母さんもどうしたの? そんな呼び止めるなんて珍しい」
「あの日向、その……」
「何?」
「……やっぱり何でもない! お風呂入ってきなさい、今日は日向の好きな集めのお風呂だから!」
厳しくにらむような顔をふにゃっと緩めて、母さんがそう言って俺の背中を押して……もう、何だったんだよ、さっきのは。
取りあえず俺はゆっくりお風呂に入って……今後の事、考えますか。
「お母さん、日向の好きなアイスなんだっけ?」
「イチゴのやつよ、ミルクたっぷりの。あとハーゲンダッツも買っておいてあげて」
「了解です!」
☆
「……お母さん、ただいま」
「お帰り……どうだった?」
「……お母さん!!! お母さん、お母さん!」
ずぶ濡れで帰ってきた私に怒りもせずに優しい笑顔を見せるお母さんに思わず飛びつく。
少し落ち着いていた心臓が、ずっと流れていた涙がさらに速度を増して、そのままお母さんの胸に流れて。
「……ダメだったの?」
「うん、うん……大好きなのに、日向の事大好きなのに……大好きだから、どうなるかわかんなくて、ほわほわして熱くなって、私がどうなっちゃうか、何しちゃうかわかんなくて……わかんなくて……怖くて、自分が怖くて……本当に好きって言われたら、ダメだった。日向の大好き、私には受け止めきれなかった……やっぱり、ダメだった、無理だった」
「……そっか」
「怖くて、嬉しいのに怖くて、すごく嬉しいのに、でもダメで……でも、でも……でももうダメかなぁ? 日向、私の事……私の事嫌いになっちゃったかな? 日向、私の事、私の事……私の事、日向は、私を、大好きなのに、大好きって言ってくれたのに……ダメかな、私のせいで日向……ごめん、日向、でも私日向が」
「大丈夫、日向君はそんな子じゃないよ。亜理紗の事、ずっと待っててくれるよ。日向君は優しいから。亜理紗の事も大好きだから。待ってくれるよ、きっと……亜理紗が自分の気持ち、受け入れられるまで」
涙でぐしゃぐしゃになって、言葉もうまく出せないような私をお母さんは優しく抱き留めてくれて、ふんわりと撫でてくれて。
優しい言葉で私を励ましてくれて。
「……亜理紗、今日は一緒に寝る? 昔みたいに絵本読んであげよっか?」
「うん……読んで欲しい……でももうちょっとこのままでいさせて」
「ふふっ、わかった……亜理紗は相変わらず温かいし、小さい。やっぱりいつまでもお母さんの子供だ……だからゆっくり甘えていいよ」
だから今日は母の胸に甘えることにした。
「亜理紗、あのね」
眠ってる亜理紗の髪を撫でながら
「……」
「これまで迷惑かけて、ごめんね。お母さんのせいだよね。お母さんがあんな人と結婚してたせいで亜理紗……幸せの容量、少なくなってるんだよね。私のせいで、ごめんね、亜理紗。幸せになるのが、幸せすぎるのが怖いんだよね」
「……」
「でもね、亜理紗。人はねみんな幸せになる権利があるの。胸いっぱいの幸せを大好きな人と一緒に抱きしめる……そんな幸せをね、人はみんなつかめるの」
「……ひなたぁ、ひなたぁ……ひなたぁ」
「ふふっ、本当に大好きだね、亜理紗は……だからね、亜理紗。いっぱい抱きしめておいで。日向君と一緒に住んで、大好きな人と幸せを抱きしめる時間を……日向君なら歩んでくれるよ、亜理紗のペースで」
「んんっ、ひなた……えへへ」
「あの子は優しい子だからね。亜理紗の気持ちを一番に考えてくれるよ、絶対……だからさ、お母さんが言う事じゃないけど、いっぱい日向君に甘えておいで。いっぱい好きをもらっておいで。ゆっくりでいいから、いっぱい日向君と大好きな時間を過ごしておいで」
「ひなたぁ……ぬへへ」
「そしたら絶対、幸せへの恐怖なんてなくなるから。もっともっと幸せになりたくなるから、幸せが物足りなくなるから……そしたらちゃんと、幸せになれるから。積み重ねれば、幸せなんてすぐに足りなくなる……幸せがもっともっと欲しくなる時が本当の幸せだから」
幸せそうな笑顔を浮かべながら静かに眠る亜理紗の頭を撫でながら。
「お母さんはね、亜理紗に幸せになってほしいから、本当に……だからね、日向君の事、大事にするんだよ。亜理紗も幸せになるけど、日向君も絶対幸せにするんだよ、亜理紗。絶対に、幸せになるんだよ、幸せにするんだよ……絶対に」
私には応援することしかできないけど。
でも絶対に……二人には幸せになってほしいから。
★★★
ドラえもんの結婚前夜が好きです。
ドラえもんズが好きです、復活してほしいです。
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