第34話

――これはなんだか駄目でしょやっぱり!




 絵里は抱いていた北木の頭を鷲掴みエニシとクズハの顔めがけて投げつけた。




「ちょっと! 邪魔しないでよ!」




 間一髪、クズハの顔に着地した北木をエニシがつまみ上げ苦笑いを浮かべる。




「忘れていた……クズハ、北木に体を返してやってくれ」



「あっ、そっか忘れていたわ」




 クズハはスーツの胸ポケットから葉っぱを出して自分の頭に乗せると煙が立ち上る。



 煙が晴れるとスーツ姿の北木と、着物姿の艶やかな美女が立っていた。




「クズハ?! 体がエロい……」




 北木の安否よりもクズハの美しさも然ることながら、着物からこぼれ出そうな凹凸の肉感に絵里の目は釘付けになる



 横では北木が一人寂しくもとに戻った体の具合を確かめ、絵里の様子を不満気に見ていた。




――紺野君は全くもって俺に興味がないのか




 先ほどまで自分だった足元に転がる狐のぬいぐるみを拾い上げ絵里の手を引くと、やっと北木の存在を思い出した様に話す。




「北木課長、戻れて良かったですね!」



「散々な目にあった……紺野君には迷惑をかけた。ありがとう」




 優しく微笑み狐のぬいぐるみを北木が手渡すと絵里は人形をギュッと抱きしめて俯く。




「本当に迷惑でしたけど、この狐のぬいぐるみが動かなくなっちゃうのは寂しいです」




 顔を上げた絵里はほんのりと頬を染めていて、北木は言葉の意味を計りかねていた。



 二人の初々しいやりとりの隣では、神に仕える狐が抱き合い濃厚なキスを繰り広げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る