第20話
「真紀ちゃん、今ちょっといいかな? 聞きたいことがあって……」
『絵里先輩……あれですよね柴田君とのこと。やっぱり私と付き合うことになっちゃて気に入らないですよね』
「落ち着いて違うから。加えて言えば柴田君みたいな年下ワンコ系は好きじゃない。ご満足?」
『はい、満足です! で、聞きたいことってなんですか?』
聞こえる真紀と絵里の会話に、北木は絵里を二度見した。絵里は別段、会話に慌てる様子もなくコピー用紙に乗った北木の尻尾を払う。
「この間、縁結びって騒いでた神社の話を聞きたいのよ」
『フフッ、ついに絵里先輩も神頼みですか? 効果は実証済みですもんね』
「惚気は今度食事おごってもらうときに聞くから」
『えっと、最初に縁朱神社ってとこで絵馬を買って、結糸神社に結びに行くんです。縁結びが上手くいったら、有難うって今度は逆の順番で回るわけです。私も、お礼しに柴田君と一緒に回るんですよ』
「はいはい。で、場所って近いの?」
『どっちも会社の近くですよ』
コピー用紙を裏に返し、絵里はメモを取ると「ありがとう」と礼を言って電話を切った。
女子同士のプライベートな会話が思ったよりも殺伐としていたことに北木は驚き、絵里を見上げたまま尻尾をゆらゆらと揺らしている。
「真紀ちゃ……野山さんて意外と嫉妬深いタイプなんです。だから、柴田君の失礼で全くありがたくない私への感情を気にしてそうだったんで、別に妬みとかで言ったわけじゃないですよ?」
「そ、そうか……なにか解決の糸口は見つかった?」
会話は丸聞こえだったが話題を変えるのに北木は真紀が話していた神社の情報を催促した。
――柴田君に興味が無いと言うのはホッとしたが、これ以上俺が深く突っ込むと墓穴を掘りそうだ。
絵里はメモするのに裏返したコピー用紙を表に戻し、クズハの横にエニシ(旦那予定)と書かれた近くに縁朱神社と付け加えた。
「明日は休みですし縁朱神社にエニシって狐を探しに行ってみませんか? まだクズハには気持ちがあるみたいだから、エニシを見つけてクズハを引き取ってもらいましょう」
「上手くいくだろうか?」
「いかなきゃ一生、北木課長は狐の人形ですよ。私に一生面倒かけるおつもりですか?」
ペンで北木の鼻を突きながら絵里は笑う。北木は首を振り尻尾を立てて絵里の目を見つめる。
「そのつもりは無い。何としてでも自分の体を取り戻して紺野君の面倒を……」
「残業と今のお詫びに、食事に連れて行ってくれるんですよね? 明日はグルメ雑誌も買わなきゃ」
北木の言葉尻を切り、絵里はお詫びと称した食事の約束に目を輝かせていた。
――姿が戻っても紺野君は俺に興味を持つことはないのだろうか?
たとえ言葉尻を切られずに最後まで北木の言葉を絵里が聞いて、笑って流されるよりは良かったのだと自分に言い聞かせ「そうだと」尻尾を力なく下げて答える。
絵里は首を傾げてフッと息を吐くと、少し恥ずかしそうに笑い独り言を漏らす。
「久々に男性とデートか……言っても相手は狐のぬいぐるみだけど」
下を向いていた北木は顔を上げ、小さな手を握りしめ尻尾を左右に大きく揺らしていた。
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