第8話

憎悪が溢れ出す。





ワタルと幸せそうにしている女が、目を細めてニタリと笑った。



それを合図に時が止まった。



ワタルの隣にいた女だけが動きだし、見えていないはずのアキに向かって話しかけた。






「幸せになって欲しかったんでしょ?人間て本当に勝手な生き物ね」






真っ黒に染まったアキを嘲るように笑う。

そしておもむろに叫んだ。






「どうかしら?そろそろ食べ頃じゃない?」






女の声と一緒に闇が広がり、どこからともなくカランコロンと下駄の音がする。






「最後の塩加減は俺の仕事だったんけどなぁ」






闇から着物姿にカンカン帽をかぶった男が現れた。



女は闇に紛れて姿を変えた。

白い肌にざっくりと胸元があき、深くスリットの入った闇のドレスを身にまとった妖艶な女の姿に。





「早いとこ食べちゃってよ」





女は闇の中、眼だけを爛々とさせるアキを顎で差した。



着物姿の男は溜息をついて、ぶつぶつと何かを呟くアキの側に寄った。






『戻りたい・・・・・・代わりたい・・・・・・』



「だから言ったじゃないですか『片道切符』だって」





アキの目から赤い涙が流れた。

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