第11話 不思議堂
僕は永遠の誕生日がもうすぐなのを知った。
うーん、どうしよう。
何かしてあげたい、と思う。
でも、何も思いつかない。
だいたい女の子の喜ぶことって、何なのだろう。僕には姉妹もいないし、見当もつかないよ。
えーい、こんな時は聞いてしまえ。
おばあちゃんだって、昔は女の子だったはず。
僕は勇気を出して聞いてみた。
「おばあちゃん、女の子って何が好きなのかな」
おばあちゃんは、にこーっと笑った。僕のおでこを突っついて、
「お、旅人、やるねぇ。永遠ちゃんでしょう?」
「あ、いや、……うん、そうなんだ。もうすぐお誕生日なんだって。おばあちゃんは、おじいちゃんからもらって嬉しかった物って、ある?」
「そうねぇ」
おばあちゃんは遠い目をした。
「ユウさんは何をくれたかしら」
名前で呼びあっているふたり。子供の頃、お隣さんの幼馴染だったんだって。ちなみに、おじいちゃんはおばあちゃんを「きぃちゃん」と呼ぶ。
それはさておき……。
「でも、何だってきっと喜んでくれるでしょ。……あ、そういえば」
おばあちゃんは何かゴソゴソと探していたかと思うと、一枚のチラシを持ってきた。
「これ、どうかしら? 面白そうよね」
そのチラシは何だか変わっていた。
『不思議堂へようこそ! あなたの必要な時、必要な物が、きっと心に届きます』
なんだろう?
雑貨屋さん、なのかな?
「この体験コース『トンボ玉でアクセサリー作り』っていうのが、良いんじゃない?」
よく見ると金額もそんなにしなくて、僕のお小遣いでも大丈夫そうだ。
おばあちゃんがさっそく申し込みをしてくれた。
—— 不思議堂は、本当に変わったお店だった。
おばあちゃんは、こんな所にこんなお店があったかねぇ、と首をかしげていた。
細々としたたくさんの物達……。
アクセサリー、布製品、ガラス製品、革の工芸品、変わった民族楽器、帽子、それにお面?
いろいろ雑多な物が所狭しと並んでいる。
奥が工房になっていて、その手前の小さなスペースに作業卓があった。
「こんにちは。申し込みありがとうございます。今、用意しますね」
斜めに被ったベレー帽、丸メガネ、白シャツに黒いエプロン、長身で細身の、このおじさんが店長さんのようだ。
「うわー」「綺麗ね」
木の枠の中、並んでいる色とりどりのトンボ玉を見て、思わず声が出た。
トンボ玉って、こんなにいろいろな模様があるんだ。
小さいビー玉みたいで真ん中に穴が
ひもと金具を通して、ストラップやネックレスなど、好きなアクセサリーが作れるんだって。
「この中からふたつ、気に入ったトンボ玉を選んでくださいね。何を作ります?」
僕はストラップにすることにした。
ペンダントみたいに直接、身に付ける物はまだ早いというか、ちょっと恥ずかしい気がする……。
「今ならお店のオープン割引で、たくさん作るほど、更にお得ですよ。奥様も一緒に、ご主人とペアの何か、いかがですか?」
店長さんはおばあちゃんを見て、にっこりした。なかなか商売上手みたい。
「あら、奥様なんて、こんなおばあちゃんに……」
そう言いながら、おばあちゃんは嬉しそうだ。
「おばあちゃんも一緒にやろうよ」
「そうね」
トンボ玉を選びはじめてすぐ、僕は迷って、困ってしまった。
あー、たくさんありすぎて選べないよ。
目移りして、目がチカチカしてきた。
「やっぱり女の子だから、ピンク系の可愛いのがいいのかなぁ」
「たーちゃん」
おばあちゃんはキーホルダーを作ることにしたらしい。もう、いくつかの候補に絞って、考えている。
「女の子だから、ピンクが好きとは限らないし、男の人でもピンクの服を着るでしょ? そんなことは関係無しに、ただ永遠ちゃんのイメージを思い浮かべてみたら、どう?」
「うーん」
永遠のイメージ……なんだろう?
僕は目を閉じて、しばらく考えた。
まるやま湖の青い空、白い雲。
森の中の教会。
ステンドガラスの光。
それから……?
目を開けて、トンボ玉の並ぶケースを見たとき、これだ! と感じるものがあった。
トンボ玉が僕を呼んでいる……?
僕が永遠に選んだのは……
明るい緑色をベースに木漏れ日が降り注ぐように見えるもの、それから、青空に薄くハケで描いたような白い模様が見えるもの、よーく目を凝らすと、模様が♾️(無限)みたいに見えるんだ。
自分用のは、あまり悩まなかった。
ほとんど黒に近い濃い紺色に星の光が散りばめられているものと、日没後、地平線にまだわずかな光が残っているようなあの瞬間を切り取ったようなもの。
おばあちゃんが選んだのは、
淡いピンクのコスモスに似た模様のもの、もうひとつ、これはオレンジ色のマリーゴールドだね。
おじいちゃん用には、
緑の草原のイメージ、よく見ると白い羊みたいな点がいくつかある、それと、もうひとつは「六ヶ岳ブルー」の空だ。
それぞれ、素敵なアクセサリーに仕上がった。
永遠が喜んでくれたらいいな。
会計のとき、おばあちゃんがまとめてお支払いしようとするので、
「あー、ダメだよ。それじゃ、僕が永遠にあげる意味がなくなっちゃう」
僕は急いでお財布を取り出した。
「別々にして下さい」
店長さんは僕に渡すとき、僕にしか聞こえないような声でささやいた。
「
上手くいく? 何が……?
お店を出るとき、振り返ると、店長さんは僕に片目をつむってみせた。何か意味ありげなサインだった。
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