7 姉のようになれるかな?
「ではお嬢様、お元気で」
「ええ」
公爵様がわたしに契約結婚を申し込んできた翌朝、約束通り公爵様はわたしを屋敷まで迎えに来てくれた。フランクス伯爵領と皇都はそんなに遠くなく、馬車で数時間くらい。なので到着は今日の夕方らしい。
この偉そうな公爵、略して「えら公爵」と数時間も一緒に居続けるだなんて面倒な予感しかしないね。
ちなみに、使用人は数名見送りに来てくれたけど当然のようにお父様とお継母様はいない。お姉様だけは見送りに来てくれていたので少し意外。
「おはようございます、公爵様。わざわざ来てくださってありがとうございます」
「荷物はそれだけか?」
「はい」
もともとそんなに物を増やすタイプではないし、そんな余裕もなかったので数着のドレスとお母様の形見、その他仕事で必要なものと数冊の本。読書は好きだし、新しいことを知るのは楽しいから勉強も好きなんだけど今まで出来なかったから、公爵家に行ったら好きにさせてもらおうと思ってる。
「はじめまして、フェルリア公爵様。ソフィア·フランクスと申します。あなたさまのお噂はかねがね」
「はじめまして。そう言って頂けると光栄ですね」
「ところで公爵様、少しだけ二人で話がしたいのですがよろしいですよね?リーシャ、あなたは先に馬車に乗ていなさい」
あれ?なんでわたしだけ仲間外れなの?しかもお姉様強引に誘ったのに公爵様も了承してるし。お姉様は私と違って綺麗だからね、別に浮気とかされるのは構わないんだけど姉妹でそれはちょっと嫌だ。
こういう浮気のこととか、跡継ぎのこととかはあとで話しておかなきゃなーって思う。どうせ三年後に離婚する契約なんだから浮気は我慢してくれたら修羅場の心配とかなくていいんだけどね。……何ていうのは冗談で、お姉様には仲の良い婚約者がいるから浮気はないと思います。
馬車の前で話しているけど、扉も窓もしまっているので何も聞こえない。ただ、お姉様がえら公爵の耳元で何やら囁いている姿はバッチリ見えた。こういう時に読唇術の心得とかあったら面白かったのに、と後悔したので落ち着いたらまずは読唇術の勉強をしようと思う。
「待たせたな」
「もうよろしいのですか?」
ものの数分で戻ってきた公爵様に聞くと、少々脅されただけだと返ってきた。あの綺麗な笑顔で脅していたのか、と感心すると同時にわたしも出来るようになるかな、と考えてみる。綺麗な笑顔かはおいといて、このえら公爵を脅せるようになりたい。
今は立場としては同じロードなので対等だが、脅すネタがないので不可能だ。別にわたしも脅されているわけではなくて自分から喜んで契約結婚に同意したんだけどね。
公爵様が御者に出発するように命じようと口を開いたとき、馬車の窓をお姉様がノックした。
「どうかしましたか、お姉様?」
「……リーシャはまだ私のことを姉と呼ぶのね」
「え?」
なんと言ったか聞こえなかったので聞き返すと何でもないと首を振られた。
「……フランクス伯爵家に帰ってきたら許さないから。捨てられたら働くでもすることね。そんなボロボロの姿で嫁げるのだからメンタルは強いでしょう」
「そうですね。捨てられぬよう努力しますよ。お元気で、お姉様」
今度こそ馬車は公爵領へと出発し、空いた窓からは晴れやかな顔をしたお姉様が屋敷へと戻っていく姿が見えたのだった。
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