2 フランクス伯爵家

「リーシャ!またあなたはここに来たの!?あなたは使用人のようにそばに控えていればいいと、何度言えばわかるのかしら!」

「申し訳ありません」


 ここ、フランクス伯爵家のダイニングで声を上げたのはわたしの母……いや、継母だった。十歳の時に病気で母を亡くし、喪が明けてすぐにやってきたのは元は愛人だったお継母様と、わたしと同い年で異母姉のソフィアお姉様。


 美貌で有名だったわたしのお母様ことフランクスの前当主が病気で亡くなってから当主は一応父へと移り、お継母様とお姉様がわたしを虐げる(と言う程でもないけど)のも黙認して自分は賭博、二人は贅沢をして散財。仕事はわたしに任せきりだけど一応直系ということでたまに食事を抜かれることはあるけど基本的に生活だけはちゃんと貴族令嬢に見合ったものにしてくれている。直系の力はすごい。


 でもね、いくら生活がちゃんとしていても仕事に追われてストレスと睡眠不足のせいでわたしの髪は艶がないし、体も栄養が足りていない。肌荒れも。いくら生活が良くてもお金の無駄でしかない。


「ですがお継母様。食事をここで取るのはいつものことですし、毎回同じことを言うのも疲れません?わたしのことは無視してくださって構いませんので、お身体を休めた方がいいのではありませんか?お継母様ももう若くはないのですし…」

「な…!」

「…まあまあ、お母様。リーシャには後で私がきつく言っておきますから、そろそろ頂きましょう?せっかくのお料理が冷めてしまいますわ」


 鋭くわたしの方を睨んだあとで、お姉様はお継母様を宥めるようにそう言った。美人なお姉様が睨むと迫力があるよね。


 なんて、そんなことを考えながらわたしも席に着く。お継母様やお姉様は顔を合わせるたびに嫌味を言ったり罵倒してくる。でも手を出したりはしない。虐げたいならそんなことで満足せずもっと徹底的にすれば良いのに。

 それで、お父様はこの状況を眺めるだけで何も言わず、使用人たちも生活がかかっているのでただ黙って俯くだけ。これがフランクス伯爵家の内情だった。


「リーシャ。お前宛てに皇帝陛下から手紙だ。まさかとは思うが咎められるようなことをしたのではないだろうな」

「ご心配なさらずともそのようなことはないですよ」


 内容は大方予想がつく。



 その日もいつも通りお継母様とお姉様は社交や買い物、お父様は賭博に行っていた。直系の娘であるわたしはというと伯爵家の継承権はお姉様に奪われているのに、領地運営などの仕事はすべてお父様に押し付けられている。だけどこれもいつものこと。次期当主となったお姉様がするのならまだわかるけどね。


 お母様が亡くなる前からある程度教育を受けていたし使用人にも一人味方がいるので、なんとか十歳のころから今までの七年間伯爵家を切り盛りしてこられた。でもここ最近はかなり良くない状況が続いている。


 領地は荒れて、莫大な借金もあるのに気にすることなく散財する家族がいるのでそろそろ皇帝陛下が出てくるころだ。それはつまり領地と爵位変返還の危機ということになる。


 お母様が亡くなる前はフランクス家もそれなりに余裕があったんだけど、ここ数年で借金まで出来た。お母様の遺産があったにも関わらずね。今はわたしの私財を投じながら何とかしている。お父様に今の状況を伝えてもお前がなんとかしろとしか言わない。領民の生活だって同じように危ういというのにね。とにかく、非常によろしくない状況になっていた。




 フランクス伯爵家は歴史ある家。そう簡単に潰させるわけにはいかないんだよね。なんとしてでもこの家を守り、代々受け継いできたものを守らなければならない。そのためには手段を選んでいられないんだけど、条件に合いそうな人は見つかりそうにない。つまり……完全に詰んでるんだよね!


「失礼します、リーシャ様」

「あらリジー。どうしたの?」

「ある方からお手紙です」


 彼女はわたしの唯一の味方。専属侍女のリジーだけどとても優秀で、彼女にはしてもらっている。


 ある方って…この家紋はフェルリア公爵家?


「ありがとう」


 その手紙には驚くべきことが書いてあった。新しく当主になった、まだ婚約者もいないとてもご令嬢に人気のある方が書いたとは思えないことが───

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