第4話 冤罪
事件が起こったのはその後だった。
「ない! ないわ……!」
一人の女子生徒――飯田さんが、自分のカバンを探りながら騒ぎ出したのだ。
「塾代が消えてる!」
その言葉に、みんなはどよめいた。
「どうしてお金持ってきてるの? 学校にお金なんて持ってきちゃダメなハズなのに」
「でも、だって帰りに支払おうと思っていたの……一度帰るの面倒で」
焦り飯田さんはそういった。
「あの時、席を外したのって……斉藤さんよね」
飯田さんの言葉にみんなが、一斉に私の方を見る。
「えっ、ちょ……」
なにを、言い出すのだろう。それは、それは私のせいっていいたげに?
「え、でも私、保健室に行ってたもの。現金って、なにそれ。私だって今知ったし……」
「まあそうよね」「でも、他に誰もいなくない?」
みんなが思い思いの事を口に出す。
「本当に、知らないってば」
「でも、実際にないもの!」
「それは誰かにいったのか?」
そこで、金成くんが口を開いた。飯田さんに詰め寄るような形で。
「いってない、けど」
「そもそも変じゃないか? 誰にもいってない塾の費用を、どうして斉藤が知ってて、そのうえで持ってくって思うんだよ」
「そ、それは……わからないわよ、適当に探ったんじゃないの? みんなのカバンを」
「それなら足を怪我していた斉藤が、わざわざ教室まで戻ったってことか? そこまでの時間はなかっただろうし、当てずっぽうで探したって? さすがに考えにくいよな。 お金はどんなのに入れてたんだよ。財布、封筒、まさか丸ごと札束でってことはないよな? なにかしらあるだろ」
「うさぎのぬいぐるみで、チャック付きのポーチよ」
「ポーチなら余計に金があるって思わないだろ……というより」
金成くんは飯田さんのカバンをじっと見つめる。
「もしかして、そのカバンにちぎれた金具がついているから……そこにつけてたんじゃないのか? それなら探るとかどうとか、そういう話じゃ――どこかで落としたんじゃないか?」
「あ……!」
慌てて、数人の女子も男子が教室を探し回る。一部の子は廊下へ出て、戻ってきた。
「飯田さん、廊下にうさぎのポーチが……」
うさぎのポーチを受け取った飯田さんは、素早くチャックを開ける。
そこには、塾代のようなお札が何枚か入っていた。
「……ご、ごめん。疑っちゃって……、どうしようとパニックになっちゃって……」
「謝るなら、俺じゃなくて斉藤にだろ」
そうして飯田さんは、少し涙目になりながら私に謝ってきた。
「ごめんなさい……」
「い、いいの。見つかって良かった」
なんだろう、良かったのだけれども、とても胸が痛い。
疑われたことがだろうか。とても、胸が痛くなる。涙がぽろりと一粒落ちた。
金成くんは、じっとそんな私を見つめていた。
***
昼休憩、金成くんにお手製のお弁当を屋上で渡す。
今日はとても美味しい、シャケ弁当だ。
「ありがとう」
「ううん、いいの。お礼をいいたいのは私。金成くん、さっきは助けてくれて、ありがとう」
その言葉に、金成くんは私の方を、私の目をじっと見てきた。
「俺さ」
とても悲しそうな顔を浮かべている。
「同じようなことが、小学校時代にあったんだよ。その時、貧乏だったからってだけで疑われてさ、誰にも信じてもらえなかった。ただそん時も、同じように見つかったんだ。謝ってもらったし、濡れ衣は晴れたけど、ずっとイヤな気分を味わったままで。だから」
金成くんはお弁当を置いて、私の両手を握ってきた。
すぅっと息を吸って、私をじっと見てきた。
「こういうときに、人を助けられる人になりたい、って思って。弁護士を目指そうと思ってる」
彼にしては珍しく、真剣な表情だ。思わず、夢を語る彼の顔を見て、とても、とても――カッコイイと思ってしまう。
「もちろん、有料だけどな」
「……うん」
やっぱり、そこは金成くんなのね、と思い笑ってしまった。金成くんは、それでいいと思う。
それで、きっと、夢をかなえてくれれば、いいと思う。
「金成くん、私を信じてくれて、ありがとう」
「……斉藤はそんなこと絶対しないよ、ちょっと気は強いかもしれないけど、お前は本当に、いいヤツだから」
人を見る目はあるんだ、と彼はそのまま言った。
「そっか、金成くんは将来弁護士なのかあ、大変だけど……頑張って。私、応援してるから。ずっと」
彼は絶対になるだろう、頭もいいし、本当に――努力家だから。
そう、私は、ずっと、応援する。
卒業する最後の日まで、ずっと応援し続けるから……ううん。
卒業しても、応援するから……。
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