【短編小説】金成くんは強欲です!

岩名理子@マイペース閲覧、更新

第1話 (ニセの)彼氏にならない?

金成かねなりくん、ちょっとお話しがあるんだけど」


 教室の放課後。私の声かけに、イスに座っていた彼は顔を上げた。茶色くガラス玉のように透明な瞳は私をじっと見捉え、その美麗な顔立ちは何度みてもドキリとする。ただし――……


「なんだよ、内容によっては相談料をとるからな」


 ……彼の名は金成かねなり 拓也。この通り、少し残念な性格だ。


 超絶イケメンではあるが、家は貧乏だということで、いつもファンの女の子からのお弁当などで食費を賄っている。私もファンではないがたまに差し入れはしていた。


「私のお願いをもし聞いてくれたら、卒業までの昼食の保証はするから」

「よし、聞こうか」


 二つ返事で前のめり気味に回答してくれる彼は、女ではなく金に対して、とても素直だ。ありがたく、話を進めさせてもらおう。


「付き合っているフリをしてほしいの。期間限定でいいから」


私の言葉に、金成くんは物言わず眉をひそめた。


***


 事の始まりは昨日の夜。

自宅に訪れた男の子の顔を見て、私は思わず悲鳴をあげそうになった。


「久しぶりだな、琴音」


 彼は私を幼い頃、いじめていた木更津哲也という。

 アメリカに行っていたが、つい先日、日本へと戻ってきたらしい。家は隣で、うちの2倍……いや、3倍はあるプチ豪邸に住んでいる。これでも、いちおう幼馴染というやつだ。……馴染んでいるかはともかくとして。


「琴音、お前はオレの婚約者だからな! これからいうことを聞けよ」


 なんの脈絡もなく彼にそういわれ、絶句した。

どういうことなのかが理解できず、母に事情を聞くと「そういえば、あなたたちが小さい頃、仲がよくって……そんな約束もしたわね。うふふふ」ということだ。


 つまり両親同士の口約束らしい。

 両親にイヤだと抗議したが――……


「どうせ彼氏とかいないんでしょう? いいじゃないの」


 何を馬鹿な。いいかどうかでいうと、最悪だ。

 仲が良くっていった?

 誰と、誰が?


 幼稚園時代の記憶が蘇る。


 虫をプレゼントされ、髪の毛をひっぱられ、おもちゃを取られ、ぬいぐるみをちぎられ、あげく私物を隠され……さんざんだ。


 彼氏がいない?

 どうして、そう言い切れるのだろう? 

 私に彼氏がいなさそうだと。 


 ……図星をつかれ、私の怒りは爆発した。


「彼氏いるもん! イケメンの彼氏が!!」


 かくして、真っ赤な嘘をついてしまった私が、どうすればいいかを必死で考えた作戦は「食費に困っている金成くんを、昼食で買収しよう作戦」だった。


 ここまでの事情を話し、私は金成くんを見て、人差し指を一本立てる。


「もちろん、本気じゃないわ。あなたは私のこの話に付き合うだけ。アイツや両親と話をつける、しばらくの間だけよ。おいしいお弁当をきちんと毎食用意するから! だから、お願い」


「……」


何を真剣に悩んでいるのだろう。

お弁当ごときでは、と思っていたのだろうか。

やはり、こんなお願い、無理があっただろうか……?


しかし、私の思惑とは、別の返答が返ってくる。


「そんなんで、いいのか?」

「あの男と関わりたくないの。恋人なんてまっぴら。相手が諦めるまでの期間よ。当然ながら、あなたの昼食生活は、完全保障するわ」

「デザート付きなら」


 惜しんだのはそこなのか?とツッコミたい気持ちを抑え、私たちは固く握手する。かくして、私と金成くんは付き合う”フリ”をすることになった。


そう、憎きあの木更津哲也め。

アイツとだけは絶対にお断りだ。


ただそれが、私の思いもよらない、そんな展開になろうとは――……

この時は考えも、しなかったけれども。

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