第44話

桜土に案内された部屋には、入ることはできないようだった。



終始無言で、手で遮り私を扉の前で止めた桜土は、口からふ、と小さく息を吐く。



するとどこかからそよ風吹いてきて、音もなく部屋の扉が少しだけ開いた。



桜土がクイ、と顎を動かす。覗け、そういうことだろう。だけどどうしても、私の身体はガタガタと震えて、動いてはくれない。



すぐに私が従わなかったのが気に食わなかったのか、桜土の目が険しく尖る。



「っっ、」


音もなく、鋭い桜土の爪先が私の首元にピタリと寄り添い、鋭利な刃物を突き付けられたように死を連想させた。



体が、震える。立っていられないほど怖いのに、足はくずおれることを許してはくれない。



もう一度、桜土が顎を動かして、再び催促される。それに素直に従った体は、扉の前でそっと立ち止まる。まるでそれは、呪縛のように、私の体を意思に反して動かしていた。




見たくない。そう思っても、目は焦点を合わせて扉の隙間からそれを見る。



動悸が激しい。そして。扉の中を覗く私の息は荒く乱れ、唇をこれ以上ないほど強い力で噛み締めていた。




目の前の光景は凄惨で、予想した通りとても怖いはず。それは自分の将来の姿だと、桜土が耳元で囁く。

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