第11話 影はこちらをジッと見ている

 帰りたい。


 ただ、そう思った。大会が終わって辺りは暗い。彼女達に反省会をすると言われて、無理に連れ去られている。


 半額でスーパーの寿司と買うとか言ってたような……その道のりを歩いていると、モエはクイーンの人の姿にちょっかいをかけていた。



「ねね、アムダ君の妹名前なんて言うの?」

「……」

「無視!? アムダ君、君の妹ボクのこと嫌い?」

「え、えと、この子は……」




 クイーンは人の姿では話すことができない。まぁ、エレモンの方でもテレパシーが使えるだけなんだが。

 そもそもわざわざ、人と話すような感じでもない。




「イヴ……って名前なんだ」

「そっか! イヴちゃんかぁ! 可愛いね」

「……っ」

「あ、やっぱりちょっとニヤってした!!」

「……」



 チカとクイーンが接する一方でモエは俺の右隣を歩く。彼女はこちらをジッと見て、一言つぶやいた。




完敗かんぱいですわ」

「あ、え、えと……! の、飲み物ないですけど……」

「パーティーでする乾杯かんぱいではなく、完全敗北をしたと言う意味ですの」

「あ、はい」




 なるほど……奥が深いな。陽キャは常にギャグとかを言って笑っているイメージだったから……





「……手も足も出ずに負けたのはお父様とお母様に次いで三人目ですわ。あの、なんで状態異常が効きませんでしたの? 火傷状態になるアクティブスキル使ったでしょうに」





 あ、【姫マル】の




「技名」【火の舞】

「威力」15

「範囲」単体

「消費魔素」30

「追加効果」

「命中率」80

「備考」なし

「系統」火




 このアクティブスキルを使ったのに平然とヴェルディオンが戦っていたことが謎なのか。



 


【パッシブスキル】

【輝く無の肉体】

・状態異常にならない。全てのダメージを20%減少。




 正解はこのパッシブスキルがあるからなんだよね。ただ、このスキル



【通常】のヴェルディオンが覚えるパッシブスキルじゃないんだよね。



 パッシブスキルには【ユニークパッシブ】と言う概念がある。これは通常の個体なら備わっているスキル。


 それが【進化】して通常とは違う効果が異なる珍しいスキルである。



 ──俺のヴェルディオンは【ユニークパッシブ】を持っているのである。


 エキシビションマッチの【クサウチ】の【ヴェルディオン】の場合は通常の【パッシブスキル】。



【頑丈な鉱石体】

・一度だけ生命がゼロになる攻撃に耐えられる



 になっていたはずだ。まぁ、毒で倒したから今回はあまり目立っていなかったけどね。


 火力向け育成すれば役立つスキルだ。



 恐らく、通常のパッシブスキルを知っていたから、混乱をしてしまったのだろう。


 まぁ、知らなくても無理はない。【ユニークパッシブ】は【通常のパッシブスキル】をクリア後に入手できる【特殊な木の実】を与え、スキルを進化させることで入手ができるからだ。



 クリア後、しかも隠し要素だからね。主人公で序盤の彼女が知らなくても無理はない、




「あ、あ、えと、た、、偶然みたいな……」

「ちょっと下ネタやめてくださいまし! 恥ずかしいですわ! ワタクシお嬢様ですのよ! ば、ばか! だなんて!!」

「え?」




 あ、この子、10歳の思春期なのか。妄想力だけは凄いな。




「あ、はい」

「それで、どうやって状態異常を防いだんですの?」

「パッシブスキルで……」

「嘘ですわ、ヴェルディオンのスキルは状態異常を無効化する代物ではなかったはずですわ」

「……あ、えと、い、色々あって、スキルも」




 言っていいのか。でも、言ったところで『木の実』がないと無理だし。そもそも取れるわけがない場所にあるし。





「……なるほど、ワタクシはまだまだ無知だったのですわね」





 よく分からんが彼女は勝手に納得をしたようだ。左横では未だにクイーンとチカが何やら会話をしている(一方的なチカの会話)




──スーパーマーケットに誘導されて歩き続けること






「あ、アムダじゃん。ルジュン」

「モエとチカも居るじゃん」






その途中『エレ塾』で通っていた同級生二人が居た。あ、よく俺の悪口を言ってた人だ。


いつも俺を見てニヤニヤしてたから覚えてる。二人で腕を組んでるから付き合ってるのだろうか。そういえば、そんな話をエレ塾でも聞いたような……




「うげ、ルジュンとローズじゃん。モエ、なんとかして」

「ワタクシも嫌いですのあの二人」




 主人公達はあの二人が嫌いのようだ。それにしてもルジュンとローズか。ゲームだと聞いたことない名前だった。


 ゲームだと、エレ塾に通っていたキャラと会うのは、アムダ、チカくらいだったからな。


 現実だと、ちゃんと会うこともあるんだな。久しぶりの再会だし、前みたいに嫌味とか言われるのかな? まぁ、それくらいなら許してあげなくも……

 





「あ、そうだ。アムダ、お前エレモン良いのめっちゃ持ってるじゃん。一匹くれよ」





 無理に決まってるだろ。頭吹き飛ばすぞ、クソガキ







◾️◾️





 ワタクシは苦渋の顔をしていた。なぜなら、ルジュンとローズと言う苦手な二人がいたからだ。



 ルジュンは図々しい男子、宿題を他の子にやらせたり、暴力はしないが自分の言うことを聞かないと不機嫌になる。


 ローズはひたすらに悪口を言う。質が悪いのはそれが真実であるのか、無いのか本人もいまいち分かっていないことだ。虚言をよく吐いている。


 この二人に共通するのは【他責】なことだ。自分は絶対に悪くないと、それを貫くためなら平気で虚言を吐く。



「あの、陰キャ、まじきもい。弱者男性みたいな感じでさ」

「アムダはきもいよ、ガリ勉でコミュ力ないし」




 悪口もキモいとかをわざと聞こえるように言っている。思ってもいいかもしれないが、本人に聞こえてはダメだろうに。




 品性がない二人がワタクシは嫌いだった。ある程度、弄りとかはいいと思うが、この二人には基本的に配慮が欠けている。


 まぁ、ワタクシも至らぬところはあるが……それにしても、嫌いだ





──この二人はアムダ君を見つけると声をかけた




「──あ、そうだ。アムダ、お前エレモン良いのめっちゃ持ってるじゃん。一匹くれよ」

「確かに! 一匹位いいよね」

「え、無理だけど……」



 エレモンくれとか、無理に決まっているでしょうに。アムダ君が断ると、途端に二人は不機嫌になった。



「ノリ悪い……お前、そんなんだから彼女できないんだぞ」

「空気読めないよね、相変わらず」

「えっと……彼女は出来なくても、えとさ、いいかなって」

「嘘つくなよ、出来ないからそう言ってるだけなんだろ? じゃ、貸してくれよ。そしたら、彼女とかできるぞ」

「無理だけど……レンタルはしない主義だし……」




 ルジュンは色々と言いながらどんどん、不機嫌になっていく。その隣でローズも追い打ちをかけるように口を開き続ける。




「あんたさぁ、強いエレモン持ってるだけなんだから、そくれらいの器量見せてよ、男でしょ」

「──え、えと、男とか、女とか、関係ないような……」

「男らしくない……ぷぷ、それじゃ一生彼女出来なそうっ」

「それな! それにテイマーとして大したことないのに、ちょっと珍しいエレモン持ってるだけ……。少し分けてくれよ」

「そうよそうよ、下駄履いてるんだからさ。それが脱がされそうになったからって、ムキにならないで、大人しく貸してって。そうすれば丸く治るのに、本当に空気読めないよね」





 横のチカも流石にいやいや、みたいな顔をしている。ワタクシもそろそろ口を挟もうと思った。

 

 もしかして、この二人、アムダ君にエレモンを貰う為にこの辺りに潜んでいたのでは……



 そう思いかけた時、アムダ君は口を開いた





「えっと、無理だよ。いくら言われても……」

「お前さ、運だけなんだから」

「そうだね。俺は運だけだよ……分かってるよ。そんなの」

「は?」

「分かってるよ。偶々今みたいに楽しい時間を過ごせてるなんてさ。えと、ルジュン君が言ってるのは全部正しい。お、俺自体は大したことはないんだ。友達も彼女も居ないし、ぼっちで、陰湿だし……でも、君は俺とは違って、陽キャだろ?」





 アムダ君は思っていた以上に……度胸があるのだと思った。彼はたじろいているが、真正面から言葉を言っている




「君には、俺にない全部がある……友達とか、彼女とか、コミュ力とか、空気を読むとかさ。でも、俺には何もなくて……だからこそ、

「……ッ」





 ──




 最初は光で彼の後ろから影が伸びていた。しかし、途端にそれが異様なほど大きくなって、ワタクシを含め、全員の地面を影で埋めてしまった。






「──もう、懇願しないで。無理だから……」

「お、お前さ」

「ちょっと、な、なんか、変だって……」




 ルジュンとローズが辺りを見渡して、恐怖し始めた。ワタクシとチカも恐れている。彼の影に潜む、底知れぬ【何か】に



「君達じゃ、勝てないよ。言ったでしょ。俺には居なかったってさ。この状況は偶々なんだ。本当なら、君達の方が強いと思うよ。君達の方が上に立って然るべきの人間だと思うよ、だって、きっと俺よりも全ての能力で優っているから」

「……っ」

「これ以外はね。だから、エレモンだけは絶対に俺達には勝てないよ。これ以上、言う必要性はないと思う」






 ──ゾクッ


「「──ッ!!!!!!?」」





 二人は血の気が引いたような顔をしていた。




 一瞬、




 わずか一瞬だけ、





 アムダ君の後ろに影の塊がいたからだ。




──あれを正面から見た二人は恐怖でパニックになったのだろう。




横で見ていた、ワタクシもチカも、思わず、氷になってしまったかのように体が硬直していた。



 互いに眼を見開き、アイコンタクトをする。




──




「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

「あああああぁああああかかかかああっぁぁぁあああああああ!!??」




 絶叫をして、走って逃げていった。二人の体は汗でびっちりで、顔も鼻水とか、で汚れていた。




「あ、行っちゃった……運だけか。そんな風に言ってくれるなんて嬉しいなぁ……俺にもようやく運の風が吹いてきたよ……ずっと、狭い部屋だったんだから」




 二人の絶叫に巻き込まれて、彼がなんと言ったのか聞こえなかった。





「ありがとね……もう、大丈夫だよ」





 彼がそう言うと、影は消えた。何事もなかったように。彼は再び歩き始めた。




 ──これは後で聞いたことだけど、ルジュンとローズはこの出来事が脳に焼きついてしまい、暫く食事も出来なかったらしい。


 睡眠がまともに取れなくなったらしい。夢であの【何か】が出てくるからだとか……


 しかも、夜に歩くことができなくなったとか……まぁ、風の噂だが。






「うぅぅ、アムダ君、モエちゃん、イヴちゃん……怖くてボクちょっとちびってしまったんだけど……変えのパンツある?」

「……なんて事言ってますの?」



 まぁ、ワタクシも少しだけちびってしまっていますが……一旦、下着を履き替えてワタクシ達はスーパーマーケットに向かった。




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