最終章 暴風の宮廷
50 王の沈黙、改革の歯車
アルバナ王国の王宮は、戦争で疲弊した国民の暮らしとは対照的に、絢爛豪華な姿を保っていた。その夜、翔は宮廷で開かれる盛大な宴に招かれていた。彼に断る権利はなく、重々しい足取りで煌びやかな広間に向かった。
広間では、王が玉座に腰掛け、珍しい果実や酒を前に饒舌に語っていた。宮廷音楽が流れる中、貴族たちが笑顔を浮かべて杯を傾けている。まるで戦争が存在しなかったかのような光景だった。
王の贅沢と無関心に苛立ちを覚えた翔は、王に改めて財政改革案について説明しようと近づいた。
「陛下、戦後復興のために、ぜひとも改革へのご理解をいただきたいのです。現在、王宮の維持費が財政を圧迫しており――」
話が終わる前に、王は手を振り、面倒そうな表情を浮かべた。
「改革、改革と言うが、いつも同じ話だな。まあ、必要なら適当にやればいいさ。ただ、わたしの生活を乱すことだけは許さんぞ。」
王は食卓の果物に視線を落とし、次に珍しい香辛料を用いた料理について料理長に質問を始めた。翔は息を呑んだ。
翔の怒りは収まらず、広間を後にした。その足は無意識に執務室へと向かっていた。
◇
執務室で、翔は改めて財務報告書に目を通していた。その報告書には、莫大な王宮の支出が記載されていた。宮廷の装飾品や贅沢品、宴会費用に至るまで、戦時中も衰えることなく費やされていた事実が赤裸々に示されていた。
「王宮の維持費が……こんなにも高額だと?」
報告書には、莫大な額の支出が記載されていた。宮廷の装飾品や贅沢品、宴会費用に至るまで、戦時中も衰えることなく費やされていたのだ。
「これは……戦争中も同じだったのか?」翔が冷静に尋ねると、役人たちは視線を伏せた。
「ええ、宰相閣下がご存じの通りです……」
その言葉を聞き、翔はすぐにフリーデリケに面会を求めた。
◇
宰相の執務室で、フリーデリケは翔の訪問を落ち着いた表情で迎えた。だが、翔が持参した報告書を目にすると、わずかにその表情が曇った。
「フリーデ……これはいったいどういうことだ? 王宮の無駄遣いが、戦争中も続いていたなんて。君も知っていたのか?」
翔の声には苛立ちが含まれていた。しかし、フリーデリケは冷静に頷き、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
「翔、あなたにすべてを話すべき時が来たようだわ。」
彼女は執務机から立ち上がり、窓の外を見つめた。その視線の先には、かつての戦場に立つ兵士たちの記念碑が見える。
「アルバナ王……彼は確かに、優れた君主ではない。彼が自ら国を導いたことは一度もないと言っても過言ではないわ。」
翔は言葉を失い、フリーデリケの背中を見つめた。彼女の声には、どこか諦めにも似た哀愁が漂っていた。
「では、なぜ……なぜ戦争中も彼を擁護したんだ? 王が暗君であることが明らかになれば、国民の信頼も失われるはずだ。」
フリーデリケは振り返り、翔の目を真っ直ぐに見つめた。
「その通り。だが、それ以上に大きな問題があったのよ。王室の威厳が失われれば、同盟国との連携は崩れる。戦時中に王位を揺るがせば、国全体が瓦解する危険性があったわ。」
彼女は再び歩き出し、翔に近づいた。
「あなたには理解してほしい。この国を守るためには、王室の存在が必要だったの。そして、戦争を終わらせるまでは、どんな犠牲を払っても……」
「犠牲……か。」翔は複雑な表情を浮かべた。
「そうよ。そして、いま平和が訪れた以上、この状況を変えなければならない。あなたが進める改革は、その第一歩になるはずだわ。」
翔は拳を握り締めた。
「分かった。だが、これからは隠し事はなしだ。国の未来のために、君と協力して進めていきたい。」
フリーデリケは微笑み、頷いた。
「もちろん。翔には大きな信頼を寄せているわ。共に、この国を変えていきましょう。」
◇
二人は改めて力を合わせ、王室の支出削減を含む大規模な改革を進める計画を立て始めた。しかし、その背後では、アルバナ王が自らの立場を守るため、密かに動き出していることを、まだ誰も知らなかった。
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