20 包囲戦の行方
クラウス司令官は地図の上に手を置き、少し頭を上げて翔を見つめた。その表情には驚きが浮かんでいる。
「正直なところ、我が軍の兵站がここまで万全だとは思わなかった。戦争に長く関わってきたが、これほどまでに後方からの支援が途切れず、物資が常に十分に供給されることがどれほど士気を高めるかを実感している」
「あなたがすべて改善させたのか?」
翔は微笑んでうなずいた。
「そうです。戦況が厳しくなる前に、私はまず後方を強化することが何より重要だと考えました。物資が不足すれば、兵士たちの士気はすぐに低下し、前線は崩れやすくなる。だから、物資の補給ラインを再編し、無駄を削減し、物流を改善したのです」
クラウスはしばらく沈黙してから、ふと小さく笑った。
「戦場にいると、兵士たちは物資を考える暇などない。ただ目の前の敵と戦うことしか考えない。だが、こうして何も物資の心配をせずに戦えることが、これほど安心感を与えるものとは…」
「そうでしょう」翔は頷く。
「食糧も武器も万全にある。兵士たちが飢えや寒さに苦しむことなく戦える。それが勝利に繋がると信じています」
「本当に見事な仕事だ」とクラウスは感慨深げに言った。
「ここまでの兵站が整備されていれば、戦う側としても、これほど戦いやすいことはない。我々の戦力は、間違いなく強くなっている」
フリーデリケも翔に微笑みながら言葉を添える。
「物資が整うことで、兵士たちも安心して任務に集中できます。今後の戦況がどうであれ、我が軍はその基盤がしっかりしていることが重要です」
「確かに、その通りだ」とクラウスは深く息をつき、肩の力を少し抜いた。
「この戦い、物資の不安がないことで、最後まで持ちこたえられるだろう」
翔はクラウスの反応に満足しながら、再び地図に視線を戻した。
「これで、伯爵に対して最後の一手を打つ準備は整いました。物資も兵士も万全。あとは彼の決断次第です」
クラウスは深く頷きながら、翔を見つめた。
「翔、君の手腕に感謝している。この戦いを勝利に導くための重要な要素は、物資と後方支援だと改めて思い知らされたよ」
「ありがとうございます」と翔は謙虚に答えた。
クラウス司令官が驚きを隠せず、翔の後方支援の手腕を称賛した後、再び要塞での包囲戦に戻った。
その光景を眺めながら、翔は胸の中に焦りと痛みを感じていた。自分が計画した包囲作戦は進んでいたものの、民衆を飢えさせるという代償があまりにも重かった。
「そろそろ限界だ…」彼は疲れた声で呟いた。
そんな彼の思いを察したかのように、フリーデリケが近づいてきた。
「翔、もう時期を見極めるべきだと思います。限界はすぐそこです。もし、これ以上待てば…」
翔は顔を上げ、彼女を見つめた。
「そうだな…このまま戦いを引き延ばせば、餓死者が出てくる。でも、伯爵はそう簡単に降伏しないだろう」
「だからこそ、今です」
とフリーデリケは毅然とした口調で言った。
「今ならまだ、伯爵も民衆を守るために決断を下す余地があるでしょう。これ以上、死者を増やすわけにはいきません」
「しかし…」翔は少し戸惑いを見せた。
「伯爵に降伏を強いることは簡単ではない。彼が最後まで抵抗することを選べば、さらなる犠牲が…」
フリーデリケは一歩前に出て、翔の目を真っ直ぐ見据えた。
「私たちは民衆のために戦っているのです。伯爵が頑固であろうと、彼を説得する以外の選択肢はありません。自害を条件に降伏を提案すれば、彼も最後の誇りを守りつつ、降伏する可能性はあると思います」
翔はしばらく沈黙していたが、彼女の言葉にうなずいた。
「分かった。降伏を促すなら、今がその時だな」
「そうです。今が最善のタイミングです。使者を送りましょう。伯爵に最後の選択肢を与え、民衆と兵士たちを救うために」
フリーデリケは手早く指示を出し始めた。
「早急に準備を進めます。伯爵が決断するまで時間はかかるでしょうが、急がないと本当に手遅れになります」
翔も覚悟を決め、彼女と共に行動を始めた。すべてが終わるか、さらに悲劇が続くのかは、ルドルフ伯爵の決断にかかっていた。
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