18 地獄への扉
戦闘が始まった。クラウス・レヒナーの号令が響き渡ると同時に、魔導砲が火を吹いた。
魔導砲とは、魔石のエネルギーを溜めて砲撃する大砲のような兵器である。通常の火薬を使う砲とは異なり、魔石が放出する莫大なエネルギーを引き出し、それを弾丸に込めることで、一撃で要塞の壁すら粉砕する威力を誇っている。魔導砲は、数時間にわたる魔術師たちの念入りな充電の後、発射のタイミングを見計らい、一斉に放たれる。その際、砲身から青白い光が溢れ出し、地を揺るがす炸裂音と共に周囲に轟くのだ。
「一斉射撃、開始!」
クラウス・レヒナーの号令が響き渡ると同時に、魔導砲部隊は一斉に砲撃を始めた。青白い光が魔石を覆い、まるで心臓が鼓動するかのように脈動し始めた。その光は次第に増幅し、砲身全体を照らし出す。轟音と共に灼熱の光が砲口から噴き出し、空気を切り裂いた。大地が震え、まるで世界が一瞬静止したかのような感覚が襲う。閃光は夜空を貫き、ノルデンの要塞に向かって放たれた。
砲弾が要塞に着弾すると、強固に見えた外壁はまるで紙のように打ち破られ、巨大な石の破片が空高く舞い上がった。石粉が舞い上がり、視界は灰色の霧に包まれ、崩れかけた塔が轟音と共に倒壊していく。要塞内部からは悲鳴が響き渡り、混乱の声が徐々に大きくなる。
その頃、要塞の外でも恐慌状態に陥っていた。砲撃の轟音がノルデン全土に響き渡り、震える地面に怯えた民衆が一斉に逃げ出した。彼らの頭に浮かぶのは、ただ一つ、生き延びることだった。しかし、逃げ道は限られており、選択肢は要塞へと続く一本道しか残されていなかった。逃げ惑う民衆は、ただ無意識に要塞へと向かって走り出す。道は逃げる人々でごった返し、子供たちは親の手をぎゅっと握りしめ、恐怖に震えていた。老人たちは杖をついてよろめきながら、助けを求める叫び声も途切れることはなかった。
一方、要塞内でも動揺が広がっていた。領民たちが押し寄せ、ルドルフ伯爵は顔をしかめた。領民を無視することはできず、やむなく彼らを要塞内に避難させる決断を下す。だが、この判断が彼にとって致命的なものとなる。
「領民を避難させろ!」
ルドルフ伯爵の怒声が轟音にかき消されかける中、要塞内は混乱に満ちていた。逃げてきた民衆のざわめき、そして兵士たちの慌ただしい足音が響く。だが、その中に、不吉な気配が漂い始めていた。
「伯爵様、大変です!」
駆け込んできた兵士の顔は青ざめ、息も乱れている。その表情を見た瞬間、ルドルフは嫌な予感に駆られた。彼は冷静を保ちながら、その報告を待った。
「要塞内の食糧が、ほとんど残っておりません!」
瞬時にルドルフの顔がこわばった。心の中に走る焦りと不信感。彼の脳裏には、先日の豪勢な宴の光景がよぎる。備蓄が十分だと信じていた。そんな自信が、一気に崩れ去った。
「なんだと?」ルドルフは怒りを抑えきれず、拳でテーブルを叩きつける。
「備蓄していた兵糧はどうなっているのだ!?」
「それが…」兵士は戸惑いながら言葉を絞り出した。
「王国軍が、市場から食糧を買い占めていたとの情報が入っております。一部の者が備蓄を横流ししていたのも事実です。しかし、元々の供給自体が大幅に減っていたのです!」
ルドルフは目を見開いた。
「何だと?王国軍が食糧を買い占めただと…? 我々のために必要な兵糧をだと!?」
兵士は小さく頷いた。
「はい。ノルデンの市場では、すでに食糧の価格が高騰しており、我々が確保しようとしたときにはすでに手遅れだったとのことです。王国軍が戦略的に物資を押さえた結果、ここまで逼迫してしまったようです。」
兵士の報告に、ルドルフの怒りは絶望へと変わった。信頼していた部下に裏切られたのか、それとも単なる監督不行き届きか。敵は外から迫り、王国軍は内から兵糧を奪っていく。
「くそっ、やられた…」ルドルフは激昂し、拳を強く握り締めた。
「これでは、籠城など不可能だ。」
ルドルフは、自らの愚かさを呪った。
食糧不足の報せは、瞬く間に要塞内に広がり、兵士たちの間で動揺が広がった。
「もう食糧が尽きるのか…?」
「こんな状態では、皆飢え死にだ!」
兵士たちは命の危機を感じ、不安と恐怖が募っていた。中には、籠城を続けるのは無謀だと考え、密かに脱走を企てる者まで現れた。
避難してきた民衆もまた、食糧の不足に怯えていた。泣きじゃくる子供たち、不安そうに夫や家族を見つめる母親たち。人々の不安は日に日に膨らみ、民衆の声は次第に大きくなっていく。
「もう何も食べられないのか…?」「子供たちが飢えてしまう!」
要塞内は混乱の極みに達し、兵士と民衆の不安が渦巻いていた。
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