第9話

そして、なぜか・・






 ピンポーン



(…あ、きた)






「お疲れ。わり、遅くなった。」


(髪、少し乱れてる…)






彼は、毎日家に来るようになった。


 






「秋乃、晩飯あるか?」


(…ネクタイ、緩めるの)





「お疲れさまです。ありますよ。今温めますね。」


(様になってるな、)


 



そして、その日常に慣れている私もいる。






「残業だったんですか?」




クシャリ、と髪を乱しソファに座る佐々木さん。



(無駄に、長い足め。)







「ああ。あいつら、俺にすごい量押し付けていきやがって。」





「仕方ないですよ。佐々木さん、みなさんに期待されてるんですから。」








”佐々木に、頼むか。”


”まあ…あいつなら、安心できるしな。”

 







(…言われてた、もんな。)






「…そんな訳ないだろ。今日、合コンだから早く行きたかっただけだろ。」





「…あーーそれもあるかもですね。」





 

「だろ?」







口角を上げて私を見上げる佐々木さん。



その表情から、疲労が見てとれる。





そんな彼に、私は…






「…佐々木さんは、行かなくて良かったんですか?」


(こんなこと、言いたい訳じゃない、のに…)








「…お前、俺になんか恨みでもあんの?」



窺うように隣に座る私に、僅かに表情を歪めてみせた。




(不機嫌…)






「、え。なんでですか?」





「…さっき、俺言ったろ?残業だって。その後に、わざわざ疲れるところに行くわけないだろ。」





と、心底嫌そうに私の頭に手をのばし、





「…たしかに、ですね。」


(本当、癖…だな)




私の髪を、乱す。






 

「それに、お前の飯食べたいし。」



(…疲れる、とこなんだ、) 









この何も考えなくていい、佐々木さんとの


この時間が3年前から私の安らぎの時間でもある。




(良かった、とか、思ってみる…)

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