第1話
私たちはテントウムシだ。いや、決して頭がおかしくなったから、自分たちのことをテントウムシだと思い込んでいるわけではない。
ただ、私の名前が
昨晩寝る直前に、この新発見に気づいた瞬間、かけたばかりのタオルケットを蹴飛ばし、ベッドの上でゴロゴロ転がって、大いに喜んだ。
天授という名前は大嫌いだけど、てん、とついてよかったと心底思った。
今日はこのことを、七瀧くんに教えるためにめげずに話しかけようと思う。
いつものように心の準備をしてから自分の席から立ち上がる。
七瀧くんの机の真正面で立ち止まって「おはよう七瀧くん」と話しかけたら、予想通り無視された。
けど、いつもは顔を上げて私の顔を睨んでから無視するのに、今日は顔すら上げてくれなかった。
七瀧くんの切れ長の目は私を一切映さずに手に持っている文庫本の文章を映している。
やっぱり毎日しつこく話しかけたのが原因で嫌われたのかもしれない。どうしよう。不安感から元々不安定な心がぐらぐらと揺れ始める。七瀧くんは本に集中しているだけだ。
「ねぇ、おはよう。何読んでるの?」
言い聞かせながらめげずに質問すると、七瀧くんは音が聞こえるぐらい大きく瞬きして、少し厚めの下唇を小さく開いた。
「はよ……。昨日と一緒」
七瀧くんが昨日読んでいたのは、二十代男性の私立探偵が主人公のミステリー小説だった。
「あっ、ミステリー?」
また無視されるかもしれないと予想していたからワンテンポ遅れて返事をしてしまった。「そ。……毎日何読んでんのか訊くけど読む本はそんな頻繁に変えねぇよ。明日は訊くなよ。同じだからな」
顔は上げてくれなかったけど返事をしてくれた。とりあえずよかった、と心の中で呟くのと同時に心の揺れが徐々に収まっていく。
「読み終わったら貸してくれるって約束してくれたよね?」
「してねぇよ。いつしたよ。お前の妄想の中か夢の中でしただけじゃねーのか? 現実と混同すんなよ」
ほぼノータイムで突っ込んでくれるからボケた方としては嬉しいし気持ちがいい。
「えー、したよ」
「してねぇ」
「ブックカバー可愛いね」
「またぽんぽん話題変えるな。絶対目についたってだけで何も考えずに口に出しただろ」
「駄目なの?」
「……だ、駄目とは一言も言ってねぇよ」
「そう。……うん、やっぱり可愛い」
「そうだな」
「めっちゃ棒読み!」
「可愛いって思って買ったわけじゃねーよ。……ただ水色と青色が好きだから」
先週土曜日にネットで購入したと一昨日教えてもらった合成皮革のブックカバーは、涼しげな水色はクールな七瀧くんによく似合っていると思う。
そういえば、ランドセルの色も水色だった。疑っていたわけではないけど、水色が好きという発言は本当っぽい。
小学生の頃、私から話しかけたのは放課後の一回のみで七瀧くんに今と同じように机の真正面に立ってこう質問した。
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