第10話 魔石

「トーマ。こっち終わった。」


こともなげに言い放ちながら耳の長い、うさぎのような風貌の小型モンスターを抱えウカが戻ってくる。ハルも興味津々でそれうさぎもどきを眺めていた。


これによって少し時間に余裕ができた、警戒をそのままに俺は黒ゴブリンに話しかける。ネームドの中には意思疎通が可能なモンスターも存在するためである、AIってすごい。



「意思疎通はできるか?」


「グギャ…グギャアアアア!」


瀕死間際ということもあって先ほどまでの力強さはなく、特にこちらの問いに対する回答、というような意思ある鳴き声にはとても聴こえない声をあげているだけで、ナタを持ち上げる気力すらないようだ。



「だめっぽいですかね…?」


「そのようだな、自然回復されても困るしトドメを刺そう。」


慈悲など無用、相手はモンスターだ。

目の前に半透明なウィンドウが生じる。


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ネームド:オリゴを討伐しました。


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ふぅ…


「ウカ、疲れてるとこ悪いんだが…」


「ん、分かってる。待ってて?」


全て言わずとも周辺の索敵に出てくれるウカ、本当に頭が上がらない。



「ハルは大丈夫だったか?」


「え、? あ、はい!大丈夫ですよっ!」


ウカが置いていったうさぎもどきを夢中に眺めていたハルは、唐突に声をかけられたためか驚いた様子で返事を返してくれる。


さてウカが戻ってくる前に死体の状態を確認しておいた方がいいだろう、そんなに長い時間残り続けてはくれないのだ。


まずは直接体面していないうさぎもどき。

こちらも黒ゴブリン同様イメージは黒。影に潜めそうなくらいの黒色の体毛に全身が覆われており、異様に発達した体本体と同じくらいの大きさの耳が生えていた。


見た目耳が発達しているところからかんしゃく玉が決まり手だったのだろう。序盤とはいえ体力フルのネームドモンスターをウカ1人で削り切ったあたり、完全にされるがままに狩られたようだ。


視覚から得られる情報はこの程度で、うさぎもどきについてこれ以上はウカの帰りを待つ必要がある。



続いて黒ゴブリンだ。オリゴ、と言ったか。まさかのネームドがタッグ、連携をとってくるとは想像もしていなかった。

かんしゃく玉を投げて以降、ナタでの攻撃しか行ってこなかった事から不可視の攻撃はうさぎもどきによるもの…と考えるのが最有力だろう。次点で冷静か万全、集中できるような状態でないと発動できないスキル系、だろうか。


確かに人間が話すようなを話していた…と思う。ネームドであること、連携をとったことからもある程度の知能があったと見ていいだろう。



暫くしてウカが帰ってきた。首を振っているため周囲に敵影なし、といったところだろう。



「ウカ、ありがとう。助かったよ。」


「私の仕事。」


「にしてもよく1人でやれたな?ネームドだろ?」


「何もしてこなかった、よ? トーマのおかげ。」


思い返すと店員との会話もフラグのひとつだったのだろう。ネームドと対峙する時点でテントは少なからず必要になるという前提。その上でその店で攻略のヒントを得られる、って流れができている気がする。初心者組はここでやられることでテントの存在を知ることができる、と。

なんとも死にゲーチックだがこうやってチュートリアルじみたヒントを点在させてくるのは運営らしい要素だ。



「準備不足だったな、舐めてたよ… 無事終わってよかった。ハルも助かったよ、ありがとう。」


「お疲れ様でしたっ。集中してるお二人かっこよかったですよ…?」


にこっと褒めてくれるハル。初見攻略できてよかった、と心から思う。



そうこうしているとネームドの死体がアイテム化していく。黒ゴブリンオリゴは鋭利な牙と拳大の黒い石、うさぎもどきは黒い毛皮とピンポン玉大のこれまた黒い石だった。



「これは…魔石なんだろうけどこの色は初めて見たな?」


魔石。

ある程度の実力を得たモンスターの体内に生成されモンスターの生態に合わせた魔力を待ち合わせる石だ。

モンスターの強さに応じて透明度が、モンスターのサイズに合わせて石のサイズが変動する。

武器や防具などの素材になったりその他アイテムにも使用する場面があったりとなかなか多様な素材である。

また納品アイテムとしても有名であり、この世界でのインフラを支えているような代物だ。

また、モンスターの属性に応じて魔石の色が火属性ならば赤系、水属性なら青系、と変化する。

闇属性モンスターも存在しているが紫色だ。これはどれだけ対象が弱かろうと紫の域を出る物はない。よって今回のという存在は異質なのである。



「黒…か。ウカは見たことあったか?」


「ない。聞いたこともない。」


「だよなぁ… 新要素、ってか。」



喋るゴブリンと黒い魔石は得体の知れない違和感を俺達に残していったのであった。



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「そういえば初ネームドおめでとう。越されちまったな笑」


「んー、名前広がるのやだ。」


そこら辺の性格は変わってないのか。

ちなみに後から聞いた話だがうさぎもどきは【イニティ】という名前だったらしい。由来が気になったがいちいちネームドに意味を持たせていたら名前が足りないだろう、適当だろうな。



「ワールドアナウンスに出るなんてすごいですよね! 何か貰えたりしないのかな…?」


「ん。あとでメールする、って。」


「決めてなかったやつか…笑」


この世界を構築している奴は見切り発車だなぁ…なんて心の中でひとりごちる。



「いい時間だし周りにも敵影なし、と。今日はこの辺にしようか?」


「ん。りょ。」

「分かりました!今日もお疲れ様です!」


イベントのことを考えると明日中には次の街に着いておきたい。そのためもう少し進めてもいいとは思ったが全員予想していなかった状況に疲弊していることだろう、脳を全力で使うゲームな以上無理は良くない。休息も大事である。


早速インベントリから低級テントを取り出し設置する。本家本元のキャンプと違って置けさえすれば安全なログアウト地点に早変わりだ。ロケーションなど考えなくていいため楽ちんである。



「じゃっ、また明日も同じ時間に。おやすみ2人とも。」


「ん。おやすみ。」


「おやすみなさーい!」




イベントまで 残り1日。

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