第4話 1週間の虚無
どうも。読真です。
本作の主人公です。
体調絶不調です。
事は今から3日前に遡る。
================================
3周年前夜の翌日、つまりAVOリリースから3周年の日。
いつもの時間に目覚め、食事を摂りタスクをこなしと、特筆するようなことのないテンプレのような1日を送り、ヘッドギアを装着して起動。これまたテンプレのような、習慣と化している周回を始めるはずだった。
いつもと違ったのはここから。
メールが1件。
3周年だしなぁ、毎年恒例の運営メールだろう。
予想通り3周年ありがとうメール。
これは予想通り。
3周年記念のケーキハット。
これまた昨晩の予想通り、というか芸がない。
もう少しなんとかならなかったのかこのクソダサ装備。2周年記念とカラーリング違うだけじゃないか?1周年の時は着けてる人見かけたけど2周年のハットは物好きしか装備してなかった記憶がある。
このゲームを3年もやってるだけ既に物好きの中の物好きな気もするが。
問題はこの次。
重要なお知らせである。
================================
さて。もう一つの重要なお知らせです。
大変長らくお待たせしております、大規模アップデートを計画しております。
================================
いやホントだよ。めちゃくちゃ待ったよ?
発表してから2年半だよ音沙汰なかったのに裏では頑張ってたの?運営ホントありがとうね…
================================
それに合わせ、明日0:00から1週間のメンテナンス期間を誠に勝手ながら儲けさせていただきたいと思います。
================================
この時点で頭が真っ白になった。
1週間の間AVOができない…?
習慣、いや、中毒と化していた終焉龍の周回。
朦朧とする中ふと我に帰る。
今日の0時まで遊び尽くしておかなきゃ…!
すぐにメール機能を閉じて終焉龍の待つ霊峰へと向かう。
急な事態に視界の狭まっていた俺はフレンド欄とワールド接続人数に注意が向かなかったのであった。
================================
23:55
【後5分でワールドメンテナンスを開始します。
クエスト中の方はお気をつけください。】
3度目になるワールドアナウンスが鳴り響くと共に血に倒れ伏せる終焉龍。
ふぅ〜いつも以上に集中した…
慣れたものとは言え1戦1戦かなり集中力を擦り減らして相手をしている終焉龍。
普段2戦調子がいい日で3戦の死闘を8戦である、メンタルは疲労困憊ものであった。
「明日も仕事あるし、さっさと寝るか…俺のAVO…俺の終焉龍…はぁ…」
深いため息と共にログアウトの操作を終え寝る支度を進める。
明日からの1週間がかなり億劫な読真だった。
================================
そして3日後、今に至る。
中毒レベルに日課としていたものを突然絶たれたのだ。めちゃくちゃ調子を崩していた。
食事は口を通らず夜も眠れず…
なんて事はなく体はすこぶる健康だったのだがメンタルが大きくやられていた。
今日は久しぶりの出社日、納品後の確認と次週期の作業の確認に本社に向かっていた。
このくらいリモートで十分可能なのではあるが、先方との意思疎通や共有と、やはり顔を合わせ話し合った方が齟齬がなく後々面倒ごとに発展しづらい。
面倒とは思いつつも会社の方針に納得している部分である。
後者はもののついでである。
これも顔を合わせた方が齟齬がないのはあるにはあるが、大概メールで済ませている部分だ。
せっかく本社まで来たんだし〜みたいな節がある。完全についでのタスクであった。
オフィスは電車で10分のビル、目的地は6階だ。
他に目的もなかったのでサクッと出社、納品に問題もなかったようで次週期の作業の確認も済ませ、いざ帰ろうとエレベーターを待っている時だった。
「先輩〜!ちょっと待ってくださーい!」
遠くからぱたぱたと軽快な音と共に走ってくる者が1人。
周囲が輝いてるんじゃないか、ってくらいはちゃめちゃに元気な太陽のような女性。
日照 晴乃 察せる通り後輩である。
俺が入社した2年後に採用された。リモートが本格化する前に仕事を教えたからか懐かれているような気もする、が歳が近い社員が俺だけだった。という悲しい事実に気づいてから無駄な期待はしていない。俺は
「今日出社だったんですね!タイミング合って良かった〜!」
「日照も出社だったのか?大変だな…確か家から結構遠かっただろ?」
思うに電車で40分くらいの結構な距離だった記憶がある。本社近くに暮らしていない社員も少なくない数在籍しているので出社日は大変そうだ。
「え、あ、あ〜笑 打ち合わせがあったんです!それに全然大変じゃないですよ!」
何かに焦ったように苦笑する日照。あれか?家の場所なんで知ってんだよ、みたいな引かれたやつか?俺もノンデリおじさんになってしまったのか…?唯一の後輩に引かれた事実に
「あれ、今日先輩めちゃくちゃ調子悪そうですね…?大丈夫です?」
そんなメンタルもつゆ知らず、察しのいい後輩。そういう気配りできるところがすごいよ、脱帽だよ圧巻だよ。でもごめん日照、俺のノンデリ具合に凹んでるだけなんだ。
「ちょっとプライベートで色々合ってな、そんなに大したことないから気にすることないよ笑」
「ならいいですけど〜…私で力になれることあったら言ってくださいね!後輩に任せちゃってくださいっ♪」
優しさが染みる…違うんだ日照、お前にしてしまったノンデリとゲーム不足というなんとも情けない理由なんだ…
だめだ、考えれば考えるほどネガティブが入ってくる。習慣ってものの大切さに気付かされるとは…気付かされる要因がゲームなのなんとかなりませんかね?
「あ、そうだ!先輩にお願いがあったんです!」
「お願い?仕事でわかんない事でもあったのか?」
「仕事じゃなくてプライベートの話なんですけど…ご迷惑でしたか…?」
不安げな目でうるうると上目遣いしてくる日照。破壊力がすごい。太陽を
「全然大丈夫だよ、俺にできる事ならなんでも言ってくれ。」
「ほんとですか!?ありがとうございます♪…先輩てゲームとかされます、?」
「ん〜…ほどよくしてるかな、?」
大嘘である。習慣と化していた。(過去形)
「実は興味があるゲームがあったんですけど、1人だとちょっと心細くて、アハハ…できたら先輩と一緒にできたらな〜…なんて思ったんですけど、だめですか、、?」
もじもじと伝えてくる後輩、そんな事ならなんでも頼ってくれ。と言ってもAVO一筋だから他のことに関しては人並みレベルだが。
というか日照ってゲームとか興味あるタイプなんだな、ちょっと意外な部分だ。
「なんてゲームなんだ?用意しとくよ。」
「あ、そうですよねそうですよね…!
ご存じも何も依存先であった。
================================
話を聞くに俺が知らないうちに公式の方からアップデートについてPVを出していたらしい。
SNS等は肌感が合わず触っていなかったので寝耳に水の話だった。
そのPVで日照は興味を持ったらしく、しかしVRMMOという一見さんには少し敷居の高い世界に日和ってしまった。そこで歳も近い俺に相談してみよう。という事だったらしい。
しかしAVOって操作性が難しかった部分が過疎に繋がった大きな要因だったと思うんだが、その辺大丈夫なんだろうか…?
「日照はVR系のゲームって遊んだことあるのか?操作が難しいイメージがあると思うんだけど…」
ちなみに依存している事を悟られるのはなんとなく恥ずかしいと感じたので既プレイである事は明かしていない。後々考えるとゲーム内で会った時にどう言及する気なんだろうと思ったがもう手遅れである。後のことは頼む未来の
「VR初心者向けのサポートが充実しているらしいんです!初めての人でも安心!てPVで公式さんが言ってました!」
「へぇ〜!そうなんだ?じゃあ安心だね。」
おいおいどうしたんだ公式。俺たちが散々言い続けてきた要望に3年越しに応えてくれたってのか…?(手遅れ)
もう少し…せめて後1年早ければ…なんて思っても仕方ない。転けた事に間違いはないしあの操作性の中でも生きていた人はいた。俺もその1人だが。なんか変な結束感も仲間内で生まれていたしそれはそれで感謝すべきなのかもしれない。迷走しすぎか。感謝するべきところではないな。
「今メンテナンス作業中らしいので、ゲームできるようになったら連絡して良いですか?」
「うん、もちろんだよ。」
「ありがとうございます!楽しみにしてますね!ではまた♪」
そう言ってぱたぱたと駆け出して行った後輩。まだ作業が残ってたんだろうか?だとしたらわざわざ申し訳ないな…
しかし初心者要素が増えるのか。もしかしたら本当にAVOが覇権を取れる日が来るのかもしれないな。
また誰かと一緒に遊べるかもしれないという期待感に、曇りきっていたメンタルは嘘のように快晴のように晴々と、軽い足取りで帰路についたのであった。
================================
side 晴乃
(先輩誘えちゃった〜…!
今日は頑張った!私!
めちゃくちゃ緊張しちゃったけど顔に出てなかったかな気づかれてなかったかな…!)
月雲先輩の出社予定を社内スケジュールで確認し、わざわざ偶然を装い誘いに行った甲斐があった。40分の出勤時間などこのくらい苦ではないのだ。
(急なお誘いで変に思われてたりしないかな…焦っちゃったかな〜…)
うんうんと脳内1人反省会をしながら申し訳程度の理由付けの為に用意したタスクに戻る。
「先輩誘っておいて出来ないなんて恥ずかしいからVR練習しとかなきゃ…!なんなら先輩に頼られちゃったりして…!?」
小声に漏れるほど脳内会議は白熱していた。
「晴乃ちゃん、仕事で難しい所でもあったかい?」
「へ!?あ、ごめんなさいなんでもないです!」
恥ずかしそうにぱたぱたと走り去る晴乃。
その場に取り残された先輩社員は不思議そうに晴乃の背中を見送るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます