プロローグ











結婚記念日まであと少し






陽が少し傾き始めた頃、

夫は今日も仕事へと出かけていく









私は夫を見送るため、玄関にいた








今日もいくらしたのか分からない

高級そうなスーツを身に纏い、

香水の甘い香りがふわっと漂っている





無造作にセットされた

柔らかいアッシュグレーの髪は

どこから見ても既婚者には見えない









『じゃあ行ってくるね』



「いってらっしゃい」





彼はぽんぽんと優しく頭に触れると

いつものように私の唇に優しいキスを落とす






そしてガチャリと玄関の扉を開け、

笑顔で手を振って家を出ていく







私は手を振り返し、

できる限りの笑顔で見送った










ガチャンと静かに閉まった扉の前で

私は1人寂しそうに扉を見つめる








彼の優しいキスに

すぐに嬉しくなってしまう私は

我ながら単純だと思う








でも彼にとって私は

一番の存在、ではないのかもしれない











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