第17話
3
「ありがとう、倉内くん」
「どういたしまして!」
「――ってまだ何もしてないだろ」
「いやいや。俺これでもちゃんと考えてるから」
永人くんの冷たい反応にもめげない倉内くん。
「考えてるって、なにを」
と、問い詰められて、即答する。
「ベタにポスターとか貼ればいいじゃん」
「ベタすぎ」
「いやこういうのは正攻法が一番だって。マルちゃん元美術部なんでしょ? ポスター作るとか、得意なんじゃね?」
また急に矛先が向いて、「へっ」て、失敗したしゃっくりみたいな声が出た。
なんでわたしが元・美術部だって知ってるんだろう。
ちらりと永人くんを見ると、彼はあせったように手を合わせ、
「ごめん! 俺が前ちょっと話したんだ。てか、倉内、適当なこと言うなよ!」
「まともな意見じゃね? ねえ、マルちゃん」
「う。うん……」
いちおううなずいたけど、正直戸惑っている。
なんでいちいちわたしに振るんだろう。
それに、永人くん、倉内くんに何を話したんだろう。
永人くんが知ってるわたしって、だいたいダメなわたしなんだけど……。
再び永人くんをチラ見すると、彼はぎくりとして顔を背けた。
「あーもう、帰るぞ倉内!」
「えー、もうちょっとしゃべってこうぜ」
「いや! 帰る!」
宣言した永人くんが、倉内くんの首に腕を回して引きずり始める。
かなり強引に連れていかれてるんだけど、「じゃーね、マルちゃん」って、やっぱりわたしに手を振るから倉内くんってよく分からない。
とりあえず、わたしも小さく手を振り返した。
かなりぎこちない動きだけど、倉内くんは星屑でもまいているかのようにキラキラの笑顔で帰っていく。
倉内くん、ちょっと謎だ。
「なに、今のチャラ男」
いつの間にかそばに来ていた新名さんが、廊下の向こうをにらんだ。
結愛ちゃんが首をかしげながら「山岡くんのクラスの人だって」と答えると、
「はあ? 山岡っち、チャラ男とつるむようになったの?」
と、新名さんは露骨に嫌悪感を漂わせた。
なんとなくだけど、新名さんああいうタイプ苦手そう。
わたしも、一対一で話すのはちょっと厳しいかも……。
いや、悪い人じゃなさそうっていうのは分かってるんだけど。
「でもあの人いいこと言ってたよ」
なんとなく張り詰めた空気の中、ひとりだけ明るい表情の結愛ちゃんが、わたしにロックオンした。
にっこりする。
「マルちゃん。ポスター、作ってみたら?」
「う……うん。作ってみようかな!」
わたしにしてはめずらしく、即断、即決。
結愛ちゃんの笑顔のおかげかな。
わたし今、ぜんぜんひるんでない。
「でも貼るなら許可とかいるんじゃない?」
新名さんの冷静な意見も、「そっか」って、前向きに聞ける。
「じゃあ、先生に相談してみたらいいかな?」
「そうだねー。行ってみようよー、マルちゃん。わたしも行くから」
「うん。ありがとう、結愛ちゃん」
「わたしも行く」
なんと新名さんまで!
ちょっとびっくりして新名さんを見ると、新名さんはすぐに目をそらして、
「行こう」
と言った。
ぶっきらぼうな言い方だったけど、誰よりも先に歩きだす。
たぶん、結愛ちゃんと同じ気持ちでいてくれるんだろうな。
なんだか、佐緒里がそばにいてくれているみたい。
わたしもがんばらなきゃ。
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