第5話

「美咲!」

 激しい熱風と共に、誰かが部屋に飛び込んで来た。

 美咲を抱き起し、口元のガムテープを剥がすと頬を叩く。

「オジサン……」

「誰がオジサンだ!」


 高瀬だった──。


「今助けてやる。頑張れよ」

 高瀬はそう言うと上着を脱ぎ、美咲に被せ、口元にポケットから出したクシャクシャのハンカチをあてた。

 そして軽々と肩に美咲を担ぐ。

「こういう時は……お姫様抱っこじゃない……?」

「そう言う口が利けるなら心配ないな」

 高瀬は抗議する美咲の尻を叩く。

「痛っ!」

「合図するまで目を閉じてろ!」

 

 次の瞬間、高瀬は美咲を担ぎ、炎の中へと突っ込んだ──。


 *   *   *


「おい、少し遠慮しろ」

 いつものハンバーガショップで、ポテトを摘まむ美咲の額を弾くと、高瀬はそう言って眉間に皺を寄せた。

「だって、アタシのクーポンで買ったポテトだよ!」

「払ったのは俺だ」

 いつものやり取り。でも、今日は少し違う。

 美咲はぺろりと舌を出すと肩を竦めた。

「そうでした。有難うございます」

「ん。食ってよし」

「え、なにそれ。犬みたいじゃん」

 美咲が唇を尖らせる。

 高瀬はさもおかしそうに笑った。

 そんな高瀬の表情をみて、美咲は日常が戻って来たこと、そして命あることの幸せを噛み締めた。


 あの日、両親はクラスの生徒と言う生徒に連絡をし、誰とも一緒でない事を確認すると警察に捜索願を出した。

 たまたま地域課に高瀬が顔を出していた事、そして、美咲のクラスメイトである大神千里が高瀬の知人であった事が幸いし、即座に美咲の捜索が行われた。

 高瀬自身も美咲から売人を知っていると聞いた事、そして優希が大神に事情を話したことで売人が発覚。

 彼らが根城として使っていた場所と特定し、美咲の救出に繋がった。


 今回の事件で、美咲は色々な事に気が付いた。

 自分が思い上がっていた事。

 ひとりでは何もできないのだと言う事。

 そして、高瀬文孝に恋をしているのだと言う事に──。

 


「ねえ、高瀬さん。アタシ、早く大人になりたいな」

 


 高瀬は目を細めると、美咲の頭をくしゃりと撫でた。



──了──

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