一章:Aボーイ

第1話

僕は世間一般でいうところのアイドルオタクだ。俗にいう「アキバ系」、今風にいうと「Aボーイ」ってやつ。




電車男の影響か? はたまた時代の流れか、Aボーイなんてすっかりカッコイイ呼び名がついちゃって世間の偏見も少なくなってきた?




(とはいえ、僕は東京在住じゃないから、秋葉原にはめったに行けないんだけどね)




いや、別に呼び方なんてどうだっていいさ。人がどう思おうが、僕はアイドルオタクであることに誇りを持っている。話は戻って、アイドルオタクな僕。だけど、そんじょそこらのアイドルオタクとは違うぞ。




自称アイドルオタクの多くは、言う割に意外とこだわりが薄い。昨日までAというアイドルに入れ込んでた癖に別の新人が出ると、途端にBに乗り換えたりだとか。そんなヤツも多い。オタクによっては、ABCと複数のアイドルを平行して追っかけているヤツもいるし。あーだーこーだ言ってる割に、オリコン入りした歌手の音楽ばっか聴いてるパンピーと変わらない。




(あ、パンピーって、一般ぴーぷるってことね)




これじゃあ、どんだけアイドル好きでも、真のアイドルオタクとは言えないだろう。だけど、僕は違う。僕はめぐりんだけを一途に想ってるさ。僕がめぐりんと出会ったのは、僕が初めてアキバという地に足を踏み入れたとき、彼女は駆け出しのアイドルとして、アキバの小さなコンサート会場で歌っていた。




今まで見たこともないアイドル。聞いたこともない名前。そうしてどこかやぼったさが抜けない、中途半端なアイドルもどき。だけど、等身大な彼女は小さなステージの上で、必死に歌ってた。そうして、ちょっぴり狂った音程と、ぎこちない踊りで、だけど一生懸命、歌い踊ってた。




ステージが終わり、始まるサイン会。僕は無名なアイドルもどきに、そこまで執着はなかった。だけど、みんながざわめきながら、長い長い行列を作って並んでたのと、折角来たアキバをもっと掘り下げて味わいたかったこともあって、その日、そのアイドルもどき目当ての行列にちょっと興味本位で並んでみた。




だけど彼女はそんな僕の冷めた気持ちを知ってかしらでか、意外と慣れた手つきでするすると色紙にサインを書き、僕ににっこりと微笑みかけてくれた。




そうして、両手で必死に握手をしてくる。すごくかわいくて感じの良い子だった。彼女が握手してくれたときのやわらかな手の感触、それで印象に残ってた。




そうして、次に彼女を見かけたのは、1年後、テレビの深夜放送だ。えもいわれぬ感慨が襲ったさ。あのアキバの小さなステージから、着々がんばってここまで来たんだなという感動もあるだろう。僕は部屋の片隅ですっかりホコリをかぶっていた彼女のサイン色紙のホコリを吹いて飛ばし、机に飾った。そうしてその日を境に、僕のめぐりんファン人生が始まる。

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