第五話 アーカイブ 2012.3.22
事件現場・名古屋大学 東山キャンパス 理学部B館2階
発生日時・2012年 3月22日 10:42
録音者・受講生 真波幸和(21歳 理学部物理学科三年生)
以下、事故状況
「はい、それでは始めたいと思います。
えーと今日はビッグクランチという現象についてお話しします。まあご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、これは宇宙の未来についての一つの仮説です。まず、宇宙の始まりとされるビッグバン、まあほぼ皆さんご存じかと思います。ビッグバンでは、宇宙は極めて小さく高密度な状態から膨張し、現在もその膨張が続いています。はい、それでは未来の宇宙はどうなるのでしょうか?」
「ここで登場するのがビッグクランチという一つの仮説です。ビッグクランチとは、宇宙がやがて膨張をやめ、逆に収縮し始め、最終的にすべてが一点に収束する現象を指します。これはビッグバンの逆の過程になります。」
「さて、なぜビッグクランチが起こるんでしょうか?」
「宇宙が膨張しているといっても、重力という力が働いています。膨張する力と、重力が宇宙全体を引き戻す力のバランスが重要です。もし、宇宙の全エネルギー密度がある一定以上であれば、重力が勝り、やがて膨張が止まり、宇宙は収縮に転じます。この収縮が続くと、最終的にすべてが一点に集中し、ビッグクランチという極限状態に達すると考えられています。」
「ビッグクランチの過程のイメージですが最初に宇宙の膨張が徐々に遅くなり、やがて膨張が止まります。次に、星や銀河が互いに近づき始め、宇宙全体が収縮していきます。この段階では、銀河同士がぶつかって恒星や惑星が破壊される可能性もあります。そして、宇宙全体の物質とエネルギーが一点に収束していき、ビッグクランチが完了、という事になる訳です。」
「ビッグクランチの過程で、宇宙全体が最終的に収束するとされる大きさは、極小の、現在の物理学で考えられる最小の長さ、およそ1.6 × 10^-35 メートルという、これをプランク長と呼んでいますが通常の物理法則が通用しなくなる所まで最終的に縮むと予測されています。」
「現時点では、宇宙が一度収縮し始めた場合、それが途中で止まることは非常に考えにくいです。重力の強い引き寄せが加速し続けるためです。しかし、暗黒エネルギーや量子効果などの未知の要因が収縮の振る舞いに影響を与える可能性は残されています。現在の観測データでは、宇宙はむしろ加速膨張を続けているため、まあこのビッグクランチという仮説についてはそれ自体が起こるかどうかも現在は疑問視され…
(机を叩く様な大きな音)
(生徒のざわめく声)
「せんせーぇ」
「はい、何でしょう?」
「田波せんせぇ」
「えーっと……何でしょう?」
「かいぬまとぉ、宇宙の繋がりについてぇ、ごぞんじ、ですかぁ」
(生徒達は何人か席を移動した模様)
「えーと、何ですか?授業の邪魔になります。関係の無い質問だと思うのですが」
「せんせーぇ」
「あの……だから何ですか?君、名前は?」
「せんせーぇ、これ誰ですか?」
「…………………何で君がそれを持ってるんだ」
「せんせーぇ。結構、遠くから来てるんですね」
「おい!聞いてるんだ!!何で君がその写真を持ってるんだ!!答えろ!!」
「田波せんせぇ。田波由那さんと田波大和君」
(生徒の悲鳴。)
「お前……………何だそれ…………………何を持ってるんだ」
「ビッグクランチは始まりを迎える」
「お前何をした!!!俺の家族に何をしたんだ!!!」
(その後、犯人からと思われる発砲音。生徒達の悲鳴とパニック状態による音の反響音の後、音声途絶)
死者:5名 重症者:12名
教室内に小型携帯ライフルによるものと思われる大量の銃撃跡あり。犯人、原仲雅司(54歳)はその場で頭を打ち自殺。原仲は両親と同居しており30年以上引きこもっていた。拳銃については入手経路を現在捜査中。
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