異世界転移した魔王、現代日本で無双する ~ダンジョン配信で世界を救う!~

りおりお

プロローグ:滅びの予兆

 魔王城の黒い空に、不穏な風が吹き荒れていた。遠くから聞こえる戦の音が、城内に静かに響いている。人間たちの軍勢が、ついに魔族の領土に攻め入ろうとしていた。勇者が率いる討伐軍の進撃は、もはや誰の目にも明らかだった。


 玉座に座る魔王は、瞳を細めながらその状況を静観していた。膨大な力を宿す彼の目には、勇者が接近するのを遠くからでも感じ取ることができる。しかし、その顔には焦りや恐怖の色は一切ない。ただ静かに、決意を秘めている。


「ついに、来たか……」


 その時、四天王の一人、炎属性を操るフレイア・アストレアが玉座の間に駆け込んできた。鮮やかな赤髪が揺れ、彼女の威圧的な雰囲気が城内を包み込む。


「魔王様! 勇者の軍勢が我々の領土に迫っています。これ以上ここに留まるのは危険です。今すぐ退避を!」


 続けて、風属性を操るルキア・フェンリスも現れた。軽やかな動きで風をまといながら、素早く状況を確認し、冷静な判断を下す。


「魔王様、私たちも早急に行動すべきです。勇者の狙いはあなた一人ですが、私たち四天王を失えば、魔族の未来も危うい。今は退避して、次の戦いに備えましょう」


 さらに、闇属性を操るゼノン・カーディアが闇の中から姿を現し、冷静な声で口を開いた。


「このままでは戦力を無駄に消耗するだけです。撤退して態勢を立て直すべきです、魔王様」


 最後に、大地の力を操るバルゴス・グレイが無言で現れると、その巨体が静かに揺れながら、他の四天王の意見に同意するようにうなずいた。彼の姿は、戦場での無数の戦いを物語っている。


 四天王たちは皆、魔王に退避を進言するが、魔王はゆっくりと首を振った。


「退避か……だが、逃げたところで、どれだけの意味がある? 勇者がここまで来たのは必然だ。これは運命に導かれた戦いなのだ」


 魔王の言葉に、四天王たちは一瞬言葉を失う。魔王が望むのは、勇者との対決だった。自らの力を賭けた最後の戦い。それを避けることは、彼の誇りに反する。


 それでも、フレイアは反論した。


「魔王様、それは分かっています。しかし、ここで敗れれば、魔族の未来は断たれてしまいます。我々がいるのは、あなたのためだけではなく、魔族全体を守るためなのです!」


 ゼノンも、闇の中から続けた。


「撤退することは恥ではありません。我々が力を温存し、再び戦う機会を作ることが重要なのです」


 魔王は再び目を閉じ、短い沈黙が城内を包んだ。そして、ゆっくりと立ち上がり、四天王たちを見つめた。


「分かった。お前たちの言う通り、退避するのも一つの道だ。だが、私はここを離れぬ。私はここで、勇者と対峙する。お前たちは他の場所へ退避し、魔族の未来を守れ」


 その言葉に、四天王たちは困惑の表情を浮かべるが、彼らは魔王の決意が揺るぎないことを知っていた。これ以上の説得は無駄だと悟り、深く頭を下げた。


「……承知しました、魔王様。私たちは、次の戦いに備えて準備を進めます。どうか、無事に戻ってきてください」


 フレイアが一言そう告げると、四天王たちはそれぞれの役割を果たすために動き始めた。彼らは魔王の決意を尊重しつつも、魔族の未来を守るために、自らの戦いを続ける覚悟を固めた。


 ◇ ◇ ◇ 


 やがて城の静寂が戻る。魔王は一人、玉座に戻り、遠くから迫り来る勇者の存在を感じながら、微かに口元を緩めた。


「勇者よ、貴様がどれほどの力を持とうと、この私を滅ぼすことはできまい……だが、試してみるがいい」


 魔王は、大剣を手に取り、最後の戦いに備えた。


 魔王は静かに玉座の間に立ち尽くし、迫り来る勇者の気配を感じていた。外では激しい戦の音が鳴り響き、城内に侵入してくる人間たちの足音が徐々に近づいている。しかし、魔王の心は静かだった。


「勇者よ、私のもとまでたどり着けるか……」


 魔王は大剣を手に取り、立ち上がった。その瞬間、異様な感覚が彼の体を襲った。周囲の空気が変わり、魔力の流れさえも歪むような不快感が広がる。何かが、この世界の法則を無視する力で彼を包んでいる。


「これは……」


 その時、彼の前に突然、光が現れた。まばゆい光の中から現れたのは、神の姿だった。純白の光に包まれ、空間そのものを支配するかのように立つその存在が、ゆっくりと魔王に語りかけてきた。


「魔王よ、汝の運命はここで終わるべきではない」


 神の声は静かだが、圧倒的な力を感じさせた。魔王はその言葉に一瞬、戸惑いを見せるが、すぐに冷静さを取り戻し、神に問いかけた。


「神よ、我が運命を定めるのは貴様ではない。私はここで勇者と対峙し、この戦いに決着をつけるつもりだ」


 だが、神は微笑んで答えた。


「勇者との戦いに勝とうとも、汝の時代は終わりを告げる。しかし、汝には新たな役割があるのだ。今の世界ではなく、別の世界で……」


 その瞬間、魔王の足元から眩い光が吹き出し、彼の体を包み込んだ。彼は抵抗しようとしたが、圧倒的な力に押しつぶされ、成すすべもなく飲み込まれていく。周囲の景色が歪み、次第に消え去っていく。


「この私を……どこに連れて行くつもりだ……」


 その言葉を最後に、魔王の意識は途切れた。時間も空間も無意味なものとなり、ただ光だけが彼を包む中、彼は新たな運命へと転移させられた。


◇ ◇ ◇ 


 魔王が意識を取り戻すと、周囲にはかつての玉座の間ではなく、広大な海と大自然が広がっていた。風が静かに頬を撫で、潮の香りが鼻腔をくすぐる。立ち上がると、目の前に広がるのは青々とした海に囲まれた島。彼が踏みしめる大地は、見覚えのない草木や岩に覆われている。


「ここは……どこだ……?」


 魔王は周囲を見回し、自分の立っている場所が完全に未知の地であることを確信した。振り返ると、彼の背後には魔族の城と街並みがそのまま存在している。しかし、それらがあったはずの荒涼とした魔界ではなく、この島に根を張るかのように存在していた。


「……まさか、城ごと転移させられたというのか?」


 彼は、静かに風を感じながら考えを巡らせた。神によって転移されたことは理解していたが、まさか自分の城や領土ごと異世界に連れて来られるとは予想もしていなかった。城の周囲に見えるのは、彼に忠誠を誓う魔族たちの街。住民たちも同じく、この奇妙な状況に気づいているのだろう。


 その時、ふと遠くから人間の声が聞こえてきた。魔王は目を凝らし、海の向こうを見つめた。そこには、島を囲む青い海を隔てて、さらに大きな陸地が見える。そして、その陸地の端に立つ近代的な建物や、空を飛ぶ飛行機の姿が遠目に見えた。


「これは……この世界の人間たちか」


 魔王はその近代的な都市の光景に驚きを隠せなかった。彼が知る人間の世界とは全く異なり、魔法ではなく技術と文明が発展したこの異世界――日本近郊の島へと彼の領土は移されたのだ。


 四天王たちの姿が城から駆け寄ってきた。フレイア、ゼノン、ルキア、バルゴスが一斉に集まり、魔王に報告する。


「魔王様! この場所は見たことがありません。異世界に転移させられたと考えるべきかと……」


 フレイアが炎のように燃える瞳で言った。


「間違いない。この世界は我々の知るものとは異なる……だが、城や街がそのまま転移しているのは幸いだ」と魔王は冷静に答えた。


 ゼノンが暗い声で続ける。


「この地に人間の気配がします……しかも、我々が知る人間とは異なる存在だ。技術を武器にしているようだ」


「ここがどこであろうと、我らは魔王様に忠誠を誓うのみです」とバルゴスが静かに語る。


 ルキアが風を感じながら口を開く。


「どうするのですか? この新たな世界で、我々はどう生きるべきでしょうか?」


 魔王は遠くに見える陸地を見つめ、重々しい口調で答えた。


「我々は戦いを望まない。しかし、この世界の人間たちが我々をどう受け入れるかは未知数だ。まずは彼らの反応を見極め、必要であればこの島を守り、平和を築く方法を探る。神が我々を導いた以上、何か意味があるのだろう」


 魔王は静かに拳を握り、次なる運命を見据えた。この日本近郊の島で、魔王と魔族たちは新たな生活を始めることになる。しかし、彼らの行動がこの世界にどのような影響を及ぼすのか――それはまだ、誰にも分からない。



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