第6話:3回目の交渉

 自衛隊調査隊長、佐々木との3回目の会談が行われることとなった。これは、政府高官との交渉に入る前の準備段階であり、実地での調査を指揮する佐々木の意見を聞き、魔族側の協力を具体化する重要な場面だった。

 

 アルシャリオンにとっては、日本側の立場や現状を把握する絶好の機会でもある。彼が日本に来てからまだ日は浅いが、すでにこの世界の技術や知識、そして彼らが直面しているダンジョンの問題について幾分理解していた。しかし、肝心なのはダンジョンが異世界と同じ性質を持つかどうかだ。それが明らかになれば、魔族側の技術や知識が役立つだろう。

 

 佐々木が姿を現したとき、彼は自衛隊の制服をきっちりと整え、落ち着いた表情を保ちながらも、少し緊張した様子を見せていた。彼は魔族の存在に慣れていないが、それを隠すことなく一礼した。その誠実な態度がアルシャリオンの心に好感を持たせた。

 

「アルシャリオン様、本日はお時間をいただき感謝します。自衛隊調査隊長の佐々木です。政府としては、魔族の協力を得ることでダンジョンの安全確保と調査を進めたいと考えております」

 

 佐々木の口調は丁寧で、慎重に言葉を選んでいるようだった。彼の真剣さが伝わり、アルシャリオンは静かに頷き、席を促した。

 

「貴殿の真摯な姿勢に感謝する。こちらも、この世界のダンジョンがどのようなものかを理解するために、貴殿の協力を期待している。どうぞ、座っていただきたい」

 

 佐々木は礼儀正しく席に着き、手元の資料を広げながら話を進めた。

 

「まず、ダンジョンについての現状を説明します。我々が確認しているダンジョンは、約2年前に突如として出現しました。内部には多くの魔物が徘徊しており、通常の武器ではほとんど太刀打ちできないことが分かっています」

 

 佐々木は資料を指し示しながら続けた。

 

「現在、我々自衛隊では、ダンジョン内部の調査や魔物に対する対応策を模索していますが、魔物に関する知識が不足しているため、対策が不十分です。そこで、魔族の知識と技術をお借りできればと考えています」

 

 アルシャリオンは、佐々木の説明を冷静に聞きながら、異世界での経験を思い返していた。ダンジョンはこの世界でも同様に、魔力が絡む問題のようだが、詳細はまだ分からない。

 

「なるほど。ダンジョンがこの世界に存在しているというのは興味深い話だ。異世界ではダンジョンは魔力を基盤として構築されている。だが、この世界のダンジョンも同じ性質を持つかどうかは、まだ分からない」

 

 アルシャリオンは、異世界の知識を活かしながらも、慎重に言葉を選んでいた。日本側がどの程度の情報を把握しているかを探るためにも、まずは彼自身が調査の必要性を強調する必要があった。

 

「まず、魔族の専門家による調査が必要だろう。我々が把握している限り、ダンジョンの内部では魔力が流れ、魔物が生成されている。これは適切に管理しなければ、『スタンピード』と呼ばれる現象が発生する可能性がある。魔力が過剰に蓄積されることで、ダンジョン内の魔物が制御を失い、一斉に外部へ溢れ出す現象だ」

 

 佐々木は、その言葉を聞いて少し驚いたような表情を見せた。スタンピードという概念は、彼にとって初耳のようだった。

 

「それは初めて聞く現象です。スタンピード…もしそんな事態が発生すれば、日本の都市部に甚大な被害が及ぶでしょう。我々としても、それを防ぐための管理方法を知りたいと思っています」

 

 佐々木の懸念は明白だった。自衛隊は魔物に対抗する手段を持たないため、魔族の協力なしではこの脅威に対処することは難しいだろう。アルシャリオンは頷きながら、冷静に続けた。

 

「まずは我々の専門家を派遣し、ダンジョンの内部を調査し、魔力の流れや魔物の生成過程を確認する必要がある。調査を通じて、この世界のダンジョンが異世界のものと同様かどうかを見極める。そして、必要であれば、魔族の知識を用いて管理方法を確立するつもりだ」

 

 佐々木は深く頷きながら、アルシャリオンの言葉を慎重に受け止めていた。

 

「ぜひ、魔族の調査団を派遣していただきたい。私たち自衛隊もその調査に協力し、ダンジョンの安全確保に努めたいと考えています」

 

 アルシャリオンは少し考えた後、再び頷いた。自衛隊との協力関係は、今後の交渉や調査を進める上で有益だと判断した。

 

「調査団の派遣については、こちらで準備を進めよう。調査の結果をもとに、日本側との協力体制をさらに深めることができるだろう」

 

 佐々木はその言葉に感謝の意を込めて頭を下げた。

 

「ありがとうございます。調査の具体的な日程や内容については、改めてご連絡させていただきます」

 

「承知した。時間を無駄にしないよう、速やかに準備を進めるつもりだ」

 

 こうして、自衛隊との初の交渉は順調に進み、アルシャリオンは次のステップに進む準備を整えた。調査が完了すれば、ダンジョンの詳細が明らかになり、さらなる協力関係が築かれるだろう。

 

 アルシャリオンは会話が終わった後、静かに立ち上がり、佐々木に軽く一礼して会議室を後にした。今後の調査とその結果次第で、日本政府との本格的な交渉が始まる。魔族と日本との共存に向けた第一歩が、確実に踏み出された。

 

 会議室を出る際、佐々木は小さなため息をついた。その表情には、安堵と共に責任感が強く刻まれていた。日本の未来とダンジョンの脅威に対して、彼はこれまで以上に真剣に向き合わねばならないと実感しているようだった。

 

 ダンジョンという未知の領域に、魔族の協力を得ることでどう対処していくか。それはまだ始まったばかりだ。政府高官たちが正式に動き出すまで、佐々木は自衛隊の現場をまとめ上げ、初の共同調査が成功するよう全力を尽くすことを心に誓っていた。


◇ ◇ ◇


 会議後、アルシャリオンは魔族側の調査団の編成に取り掛かった。彼はダンジョン内部の詳細を明らかにするため、最も経験豊富な魔術師や戦士を選び出し、すぐに準備を整えるよう指示を出した。


「ダンジョンの内部調査は、魔族の未来を決定づける重要な任務だ。異世界との共通点が見つかれば、この地での共存に大きな前進が得られるだろう。万全の体制で臨む必要がある」


 アルシャリオンの言葉に、魔族の兵士たちは力強く頷いた。彼らもまた、新たな世界での挑戦に胸を躍らせていたのだ。


 数日後、自衛隊との合同調査が始まる。日本と魔族の関係がどう変化していくのか、その第一歩が踏み出されたのであった。



ーーーーーーーーーーー

本日、切りのいいところまで投稿します。


【応援のお願い】


いつもありがとうございます!

執筆のモチベを上げるためにも☆☆☆をいただけると大変助かります。

皆さんの応援が大きな力になりますので、ぜひよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る