第12話:正式な交渉に向けて
翌日、アルシャリオンはゼノンと共に、次の段階に進む準備を始めていた。政府高官を交えた正式な交渉が行われることが決まり、魔族としての立場や要求を明確にする必要があった。今後の協力関係は、魔族にとっても日本政府にとっても重要な分岐点となるだろう。
ゼノンはアルシャリオンのそばで、資料をまとめながら話を進めていた。
「アルシャリオン様、次回の交渉では、まず我々魔族の自治権を確保することが最優先です。日本側がこちらの自治を尊重する姿勢を示しているとはいえ、正式な協議で明文化しなければ、将来的に問題が発生する可能性があります」
彼の言葉に頷きながら、アルシャリオンは自分の考えを整理していた。
「そうだな、ゼノン。我々の自治権は、この島での生活を守るために必要不可欠だ。だが、それだけでは不十分だ。ダンジョンの問題についても、明確な協力体制を築かなければならない。魔力を提供する代わりに、どのような形で我々に利益が還元されるかを確認しておく必要がある」
「技術提供も慎重に進めなければなりません。日本側の技術力と魔力の融合には時間がかかるでしょうし、彼らが魔力をどこまで理解できるかも未知数です。急いで技術を提供しても、逆に彼らが誤った使い方をしてしまうリスクがあります」
ゼノンの意見は的確だった。彼が懸念している通り、魔力は非常に強力な力だが、制御を誤れば大きな災害を引き起こす可能性がある。日本政府がどれだけ魔力を理解できるかが、この協力関係の成否を左右するだろう。
「食糧支援は継続して行われることになっているが、それも交渉の一環だ。日本側が我々に食糧を供給し続けることで、我々が生活基盤を整え、技術提供や協力体制を進めるという形に持っていかなければならない」
アルシャリオンは立ち上がり、窓の外を見つめながら、次回の交渉について考えた。日本政府との正式な協力関係は、魔族の未来を左右する大きな選択だ。しかし、彼らに魔力という未知の力を預けることには慎重でなければならない。
◇ ◇ ◇
数日後、次回の交渉の日程が決まったという連絡が佐々木から入った。今回は、政府高官を含む一行が島に訪れ、正式な協議が行われることになっていた。アルシャリオンはその準備を進めるため、ゼノンや他の魔族の長老たちと意見を交わしながら、交渉に備えた。
「彼らが来る日は、島の防衛体制も万全にしておくべきだ」
ゼノンが言った。
「万が一、何かしらのトラブルが発生した場合、すぐに対処できるようにしておく必要があります」
「その通りだ」
アルシャリオンは頷きながら答えた。
「だが、敵対的な態度は見せないように。彼らがここに来る目的は、あくまで協力関係を結ぶためだ。こちらから過剰な警戒を見せれば、逆に疑念を抱かせることになる」
ゼノンは慎重に頷いた。アルシャリオンたちの目的は平和的な共存であり、戦いを避けるための道を選ぶべきだった。
◇ ◇ ◇
そして交渉の日、島に政府高官を乗せたヘリコプターが到着した。アルシャリオンはゼノンと共に、彼らを迎えるために浜辺に向かった。今回の訪問者は、佐々木隊長に加え、内閣官房長官の山田、そして防衛大臣の井上が同行していた。
ヘリが砂浜に着陸すると、一行が降り立ち、アルシャリオンたちに近づいてきた。佐々木が先頭に立ち、礼儀正しく頭を下げた。
「アルシャリオン様、日本政府を代表してお邪魔いたします。こちらは、内閣官房長官の山田氏、そして防衛大臣の井上氏です。今日は、我々の政府と魔族の皆様との協力関係を正式に結ぶために参りました」
山田が一歩前に出て、アルシャリオンに頭を下げた。
「お会いできて光栄です、アルシャリオン王。我々としても、貴方方との協力を心から望んでおります。今日の話し合いを通じて、互いにとって有益な協力体制を築ければと思っております」
アルシャリオンは彼らに対して微笑み、静かに頷いた。
「こちらこそ、正式な協議の場を設けていただき感謝する。我々魔族も、この世界で平和に暮らすための道を模索している。お互いにとって有益な結果が得られることを願っている」
◇ ◇ ◇
城の会議室に移動し、正式な話し合いが始まった。最初に話題に上がったのは、やはり食料支援の継続と生活基盤の整備だった。山田は、日本政府として魔族に対する食料や生活物資の支援を長期的に行うことを約束した。
「我々日本政府として、貴方方がこの島で安定した生活を送れるよう、食料や生活必需品の支援を今後も継続的に行います。ただし、それと同時に、我々としてもダンジョンの問題に対しての協力をお願いしたい」
山田の言葉に、アルシャリオンは静かに頷いた。
「その点については理解している。我々もダンジョンの問題がこの世界全体にとって脅威であることは承知している。だが、我々魔族がどのような形で協力できるかについては、慎重に進める必要がある」
井上防衛大臣が口を開いた。
「もちろん、無理に貴方方に戦力として前に出ていただくつもりはありません。我々としては、まず技術面での協力をお願いしたい。魔力を用いた技術の提供や、それを我々の装備に応用する方法を学びたいのです。特にダンジョン内部での戦闘に有効な武器や防具の開発が急務です」
彼の言葉に、アルシャリオンは一瞬考えた。技術提供は、こちらとしても利益のある話だが、やはり魔力をどこまで彼らに開示するかが問題だ。
「魔力を用いた技術は、我々魔族にとって生活の一部だ。だが、それを制御するには相応の知識と技術が必要だ。貴方方がそれをどこまで理解できるか、まずはその点を確認する必要がある」
佐々木が補足するように言葉を続けた。
「アルシャリオン様のおっしゃる通りです。我々もまだ魔力についての理解が浅いため、まずは学びながら進めていきたいと考えています。日本政府としても、無理に技術を引き出すつもりはありません。少しずつ互いに学び合う形で進めていければと」
アルシャリオンはその言葉に少し安堵した。彼らが無理に進めようとしないのであれば、こちらも少しずつ協力を拡大していけるかもしれない。
「では、まずは技術面での協力から始めよう。ただし、魔力の制御については我々が主導する形で進めさせてもらう。魔力は非常に強力だが、誤れば大きな災害を引き起こすこともある。お互いの安全を守るためにも、慎重に進める必要がある」
山田と井上は深く頷き、協力体制の構築に向けた第一歩がここで始まった。
◇ ◇ ◇
交渉の終わりが近づく頃、アルシャリオンは最後に魔族としての要望を伝えた。
「我々魔族の自治権を正式に認めてもらいたい。この島において、我々は独立して生活を続ける意向だ。日本政府との協力はもちろん重要だが、我々の自由と誇りを守るため、自治権が不可欠だ」
山田は一瞬考え込んだ後、静かに頷いた。
「その点についても、貴方方の立場を尊重します。日本政府として、魔族の自治を正式に認め、共存の道を進むための協定を結ぶことを約束いたします」
こうして、日本政府との正式な協力関係が築かれ、魔族の未来に向けた新たな一歩が踏み出された。まだ課題は山積みだが、互いの信頼を深めながら、ダンジョンの脅威に立ち向かう道が開かれた。
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