第9話:日本政府の協議(日本政府side)

 東京のとある会議室では、政府関係者たちが集まり、魔族との協力に関する重要な会議が行われていた。異世界からの転移という信じがたい事実と、魔力という未知の力に対処するため、各省庁の代表者たちは神経を尖らせながら議論を進めていた。


「魔力、ねぇ……本当にそんなものが存在するのか?」


 防衛省の代表である中年の男性、井上が眉をひそめながら会議資料をめくる。彼はこれまで数度にわたって魔族との交渉に関与してきたが、魔力という概念にはまだ疑念を抱いていた。異世界の存在自体は、転移してきた島や魔族たちの証言、さらに科学者たちの分析によって徐々に現実として認められつつあったが、魔力という言葉が日本の科学界ではまるでファンタジーのようにしか思われていなかったのだ。


「佐々木隊長の報告によれば、魔力というものが彼らの文化や技術に深く根ざしているとのことです。しかし、私たちの現代科学ではそれを説明できるものではない……」


 内閣官房長官の山田が落ち着いた声で説明を続ける。彼はこの事態に対し冷静に対処しているが、内部では焦りを隠せなかった。異世界からの転移、そして魔力という未知のエネルギー。これらの要素は国家安全保障に大きな影響を及ぼす可能性があった。


「確かに、現時点では魔力について我々の科学では測定や分析が不可能だ。だが、もし本当に彼らがその力を使っているとすれば、我々はそれを無視することはできない。むしろ、その技術を利用することでダンジョン問題の解決に一歩近づく可能性がある」


 科学技術担当大臣である吉村は前のめりになり、発言を続けた。彼は技術的な進歩に常に前向きで、魔力を新たなエネルギー源や技術の進化に繋げたいと考えていた。日本が先駆者として魔力を研究し、その応用を見つければ、国際的なリーダーシップを取れるというビジョンが彼にはあった。


「ただし、彼らが我々にその技術を提供することを承諾するかどうかだが……」


 吉村の発言に、井上が割って入る。


「その点については、現時点で彼らは慎重な態度を示している。アルシャリオンという魔族の王は、彼らの自由と誇りを非常に重んじている。無理に要求すれば逆効果になる可能性が高い。彼らの世界で起きた戦争は、我々人族と似た者たちとの争いが主な原因だったと聞いている。慎重に進めなければ、かつてのような対立を招く恐れがある」


「そうだな……」


 山田が頷く。


「私たちとしては、まず彼らの信頼を得ることが最優先だ。日本政府としては、彼らの自治を尊重する方針を取る必要がある。武力で対処するのではなく、外交と協力を基盤にした関係を築かなければならない」


 会議室内が一瞬静まり返った。魔力という力を持つ異世界からの存在とどう共存するか、そして彼らとの協力が日本に、さらには世界にどのような影響を与えるかを、全員が考え込んでいた。魔族が持つ技術や魔力に頼りすぎることで、日本国内の安全保障に新たなリスクが生じることも懸念材料だった。


「問題はダンジョンだ」


 井上が厳しい声で切り出した。


「ダンジョンは日本国内だけでなく、他国でも急増している。我々の兵器では魔物に対処できない現状、魔族の力を借りる以外に手段はない。しかし、同時に我々が魔力の力を過度に依存することが、将来的に危険な事態を招く可能性もある」


「それについては、国際的な協力も視野に入れなければならない」


 山田が言葉を引き取った。


「既にアメリカや欧州連合とも情報を共有しつつあるが、ダンジョン問題はグローバルな課題になりつつある。我々日本が先行して魔族と協力関係を築くことが、国際的なリーダーシップを取るチャンスでもある」


「国際的なリーダーシップか……」


 吉村は頷きながら呟いた。


「魔族が持つ技術を手に入れ、それを応用すれば、ダンジョン問題だけでなく、エネルギー問題や他の技術分野でも大きな飛躍が期待できる。しかし、彼らが技術提供にどこまで協力してくれるかは未知数だ」


「まずは、アルシャリオン王との対話を重視し、彼らの信頼を得ることから始めましょう」


 山田が締めくくる。


「日本政府として、彼らの存在を正式に認め、共存のための協力体制を築くことを最優先に考えましょう。彼らの技術や魔力が日本にとってどれほど有益であろうと、我々の無理強いは逆効果だ」


 彼の言葉に一同が頷きながらも、心の中ではまだ不安を感じていた。彼らの魔力が日本の安全保障や技術力にどれだけ影響を与えるかは、測り知れない。それに、もし魔族が他国との協力を優先すれば、日本の立場が弱くなる可能性もある。


「加えて、外交的な視点も重要です」


 外務省の担当者が口を開いた。


「他国は既に我々の動きを注視しています。魔族との協力関係が強固になれば、他国がどのように反応するかも予測が必要です。特にアメリカは、技術提供や軍事協力の面で警戒心を抱くかもしれません」


「確かに、他国との関係も慎重に進める必要がある。だが、今は我々が魔族と一歩進んだ関係を築くことが先だ。彼らとの信頼を得ることで、他国に対してもリーダーシップを取ることができる」


 山田が続けて発言した。


「そうですね。現時点で、他国がどれほどの技術的支援を求めてくるかはまだわかりませんが、彼らが魔族と関わる前に日本が先行する必要があります」


 会議は次第に具体的な協力案へと移っていった。魔力という未知の力をどのように受け入れ、利用するかはまだ定かではないが、政府は魔族との関係を慎重に、かつ着実に進める決断を下した。魔力がどれだけ日本に利益をもたらすのか、またそれが国際的にどのような影響を及ぼすかを考えると、政府は複雑な心境を抱えていた。


 会議の終了後、山田は個人的な報告を受けるため、秘書官と共に別の部屋に移動した。そこには、魔族との交渉を進めてきた自衛隊の佐々木隊長が待っていた。


「佐々木君、現地での状況はどうだ?」


 山田が問いかけると、佐々木は資料を手に取りながら答えた。


「アルシャリオン王と何度か接触を重ねましたが、彼らは極めて慎重です。彼らの誇りや文化に対する理解を深めることが、今後の協力関係を築く鍵だと思います。特に、無理に技術を引き出そうとすれば、反発を招く可能性が高いです」


 山田は深く頷きながら、慎重に言葉を選んだ。


「彼らの魔力に依存しすぎることなく、共存の道を模索しなければならない。日本政府として、魔族との協力は国益に繋がるが、決して一方的な要求をしないことだ。まずは信頼を築き、少しずつ協力を深めていこう」


 佐々木は頷き、山田に感謝の意を示した。


「了解しました。引き続き、慎重に対応してまいります」


 こうして、日本政府は魔族との協力関係を築くための第一歩を慎重に進めていくこととなった。魔力という未知の力に対する興味と警戒心が交錯する中、彼らはこの新たな時代にどのように進むべきかを模索し続けていた。



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本日、切りのいいところまで投稿します。


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