第4話:自衛隊との次なる接触

 数日が経ち、魔族たちはようやく新たな環境に馴染み始めていた。街の中では日常を取り戻しつつあり、商人たちは店を再開し、子どもたちは広場で遊び、鍛冶屋の炉は再び火を灯していた。転移の混乱はまだ完全には収まっていないものの、魔族たちの順応力は高い。


 しかし、アルシャリオンは常に一つの問題に頭を悩ませていた。自衛隊との最初の接触が穏やかに終わったものの、彼らが魔族をどう捉え、今後どのように接触してくるのかはまだわからない。そして、彼らが語った「ダンジョン」の問題。自衛隊がダンジョンの出現の原因を知らないのは明らかだったが、魔族もその問題に対処しなければならない時が来るだろう。


 そんなある日、再び自衛隊が島に接近しているという報告が入った。ゼノンが急いでアルシャリオンの元に駆け寄ってきた。


「アルシャリオン様、再び自衛隊が島の外周に接近しているようです。今回は前回よりも装備が整えられているようで、かなりの数が確認されています」


 ゼノンの報告にアルシャリオンは一瞬考え込んだが、すぐに決断した。


「彼らの動きを見守ろう。こちらから敵意を示す必要はない。しかし、彼らが何を目的としているのかを確認しなければならない」


 アルシャリオンたちは慎重に街の外周に向かい、自衛隊の様子を確認した。遠くに見える車両と、幾人かの兵士たちが整然と動いているのが見えた。前回よりも大規模な動きだ。アルシャリオンはふと、その中心に立つ一人の人物に気づいた。前回の指揮官、佐々木だった。


「彼らは敵意を示していない。話をしてみる必要があるだろう」


 アルシャリオンは静かに決意を固め、彼らの元へと歩み寄った。ゼノンがアルシャリオンに並んで歩きながら、いつでも対応できるように警戒しているのがわかった。自衛隊もこちらの動きに気づいたのか、佐々木が前に出てきた。


「アルシャリオン様、お会いできて光栄です。今回は、もう少し具体的なお話をさせていただきたく、再度訪問させていただきました」


 佐々木は前回と同様、穏やかな表情を崩さずに話しかけた。アルシャリオンは彼に頷き、口を開いた。


「こちらも歓迎しよう。何か進展があったのか?」


 佐々木は少しためらいながらも、静かに頷いた。


「はい、実は日本政府は、この島にある貴方方の街を正式に調査したいと考えています。また、我々が抱えている『ダンジョン』の問題についても、今後ご協力をお願いできるのではないかという話が持ち上がっています」


 アルシャリオンは佐々木の話を聞きながら、彼らがどれだけの情報を収集しているのかを考えた。この島と街を調査したいというのは当然だろう。だが、彼らはまだ魔族の力や、魔族が持つ知識について完全には理解していないようだ。


「協力か…だが、我々はまだこの世界に来たばかりだ。まずはこの島での生活を整えることが最優先だ」


 アルシャリオンが静かに答えると、佐々木はすぐに理解したように頷いた。


「もちろん、そのことは理解しております。我々も無理強いをするつもりはありません。ただ、もし可能であれば、ダンジョンに関する貴方方の知識を少しでも共有していただければ…」


 ここでダンジョンの話を持ち出すとは予想外だった。彼らは魔族が何らかの形でこの問題を解決できると考えているのかもしれない。だが、今はまだその話を深める段階ではない。


「今はまだ、私たちがこの地でどう生きていくかを考える時だ。ダンジョンの問題については、後日改めて話をしよう」


 佐々木はその言葉を真摯に受け止めたようだった。彼の表情には焦りが見えるが、アルシャリオンの決断を尊重しようとしているのがわかった。


 その時、佐々木はポケットから小さな機器を取り出し、アルシャリオンに手渡した。それは、見慣れないが洗練された形の小さな装置――スマートフォンだった。


「これは、私たちの世界で使っている連絡手段、スマートフォンです。これを使えば、私たちと簡単に連絡を取ることができます。もし何かお困りのことや、再びお話をしたいときには、この端末を使ってください」


 佐々木から簡単に使い方を教わった後、アルシャリオンはそのスマートフォンを手に取り、しばらく見つめた後、静かに頷いた。


「これは、非常に便利な道具のようだ。こちらの技術に興味はあるが、今は使わせてもらうとしよう。必要があれば連絡する」


 佐々木はその答えに安堵した表情を浮かべた。


「ありがとうございます。私たちも無理に押し進めるつもりはありません。ただ、今後、共に協力できる日が来ることを願っています」


 アルシャリオンは静かに頷いた。共存の道を模索することは重要だが、焦ってはいけない。まずは、魔族がこの地に根を下ろし、新たな生活を築いてからでなければ、何も始まらないのだから。


「また必要があれば、こちらからも連絡を取る。まずはお互いが理解を深めることが大事だ」


 佐々木はもう一度深く頭を下げ、兵士たちに指示を出した。自衛隊は再び車両に乗り込み、ゆっくりと島を離れていった。


「アルシャリオン様、彼らはどうやら我々に大きな期待を寄せているようです。しかし、まだ早いでしょうか」


 ゼノンが静かに口を開く。アルシャリオンは深く息をつき、彼に答えた。


「彼らが何を望んでいるかは明白だ。だが、こちらにも準備が必要だ。まずは、魔族たちが安心して暮らせる基盤を作ることが先だ。彼らがどれだけの力を持ち、どのようにこの世界を治めているのかを見極めるまで、我々は慎重に動くべきだ」


 ゼノンは静かに頷き、アルシャリオンの言葉を受け止めた。まだまだ多くの課題が残されているが、まずは一歩ずつ前に進むことが大切だ。


 アルシャリオンは再び魔族の街に目を向けた。新たな生活が始まりつつあるこの地で、彼らがどのように未来を切り拓いていくのかは、これからの魔族たちの行動にかかっている。そして、この世界での共存の道を探りつつ、魔族の力を示す時が来るだろう。



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