放置ゲームのキャラクターになったみたいです ~ 放置ゲームの裏側の世界 ~

榊ジュン

第1話 農夫 x 拉致

俺の名はアッシュ、南大陸ゴルドリオ王国パル村出身の農夫、茶髪に黒い瞳のありふれた外見の22歳、祖父の代から続く麦畑を父と兄、俺の三人で管理している…


いや、今日もいつも通り畑の見回りに出ていたはずなんだが、妙な光に包まれたあと、見知らぬ場所に閉じ込められている。

薄暗い石造りの部屋、蝋燭も松明もないのにほんのりと明るくなっている、どういう仕組みなのか分からないけど、真っ暗でないのは助かる。


気が付いてから既に数時間は過ぎているだろう、父は、兄は一体何処に、ここは何処でなぜ俺は閉じ込められているんだろう?


縛られたりもしていないので、色々調べてみたが、開かない扉が1つ、それだけだ。

周りを見渡すが窓もなく机も椅子もない、木で作られた扉があるが、金属で補強されていてかなり頑丈だ、こんな扉は村長の家にもなかった、石造りの部屋もかなり珍しい、俺はこれからどうなるんだろう?

このままここで餓死するんだろうか?


そんなことを考えていると、扉の向こう側から物音が聞こえ出した、どうやら複数人の人がいるらしく、怒鳴り声や悲鳴が聞こえてきた後、急に静かになった。

どういう状況なんだ?


ガチャンッ!


「さあアッシュ!出てくるんだ!!!」


勢いよく扉が開くと甲高い、子供のような声が俺の名を呼んだ。


「うっ、眩しぃ…」


俺は警戒しながら、扉をゆっくりとくぐって出ていく、ああ、陽の光が眩しい…

石造りの部屋だと思ってたのは崖の側面で目の前には簡単な造りの小屋が5つほど、そして小太りな中年男性と革鎧を着た若い女性、甲高い声の主は驚いたことに村の長老から話を聞いたことがある妖精の姿をしていた、身長は俺の脛ぐらいで羽が生えており、紫色の綺麗な髪はその身長と同じくらい長く、くるくるとカールがはいっている。

目が光に慣れてきたので周りを観察するが、村と呼ぶにはあまりにも小さな集落、だけど一応門と木の柵で囲われているみたいだ。


「ようし!出てきたね!じゃあ早速説明するよ!」


妖精はこちらを見てニンマリ笑うと俺を手招きしながらさらに話し出した。

地面には無造作に短剣が三振り落ちている。


「コール、アナ、アッシュ、君たち3名はこれからマスターのチュートリアルに付き合ってもらうよ!もっとも拒否は出来ないし、コールとアナはもう知ってるだろうけど、こう見えてもあたしには君たちを一瞬で殺す事が出来るくらいの力もある、まずは今から話が終わるまでは黙って聞くこと!」


コクコクと頷く茶髪の小太りな中年男、おそらくコールと赤い髪のアナという名前らしい革鎧の女性は緊張した面持ちで次の言葉を待っている。

2人とも顔が真っ青だ、俺が呼ばれる間に一体何があったんだろう?


「よろしい、では、最低限の説明をするからよく聞いてね、この場所はと呼ばれていて現状は非常に狭い世界です、君達はマスターの命令に従いこの地でミッションをクリアしていくこと、それが生き残る唯一の方法です!

そして、マスターはこの世界に姿を現すことも声を聞かせる事もできませんが、それは案内妖精のあたし、プリム=プリン様が代行して行います、まずはここまで、質問があればしてもいいよ」


ドヤ顔で一旦話を区切った妖精プリム?プリン?どう呼べばイイんだ?というか理解が全然追いつかない、箱庭?マスター?ミッション?

何を質問するべきか悩んでいるとコールが案内妖精に質問をした。


「元の場所に返してもらえませんかね?私、商人でして、あまり店を空けるわけにも…」


被せ気味に案内妖精が返事をした。


「ムリだよ?そもそも帰れないからね、君達はマスターの召喚でここに強制的に連れて来られたんだ、生き残るか死ぬか?ミッションを全てクリア出来ればもしかしたらって感じかな?じゃあ続きの説明をしまーす!」


ああっ、質問が出来なかった…

というか帰れないのか?

いまの説明からマスターって領主様みたいに偉い人なんだろうと想像はつくが、妖精を使役して、俺達をこんなところに呼び出して何がしたいんだ?


「今からマスターの権能で皆さんに自分のステータスが見えるようにします、その後はチュートリアルが開始されるので、そこに落ちてる短剣を各自拾って装備してくださ〜い!」


俺の目の前にいきなり半透明な画面が現れた、これがステータス?


アッシュ、健康、ランク:ノーマル、職業:農夫

レベル1 HP20 MP0


俺は読み書きなんて出来ないはずなのに、書かれている内容が理解できる、ランク?レベル?なんだこりゃ?

それにチュートリアルってなんだ?


「あの、プリン様、このステータス?の内容って何なんですか?」


赤髪のアナの質問に面倒くさそうな表情を浮かべる案内妖精。


「まあ、そのうち判るよ、HPが0になると死んじゃうから、今はそれだけ知っておけばイイよ、馴染んでくればもっと色々な情報も見れるようになるけどね、さあ、とっとと短剣を拾って、これから箱庭を出てチュートリアルの開始だからね!

それとアナ、プリン様って呼び方はイイね!気に入ったよ!」


各自言われるままに短剣を拾うと、プリン様がついて来るように促す。


「今からチュートリアルとして箱庭を出て森に入ります、森に出てくるモンスターを倒しながら進み、ボスモンスターを討伐すれば最初のミッションは完了だよ?

今回だけはあたしも着いて行くから、後は進みながら説明するからね、マスターは君達の行動を観てるから、ガッカリさせないように頑張るんだよ!」


モンスターを倒す?俺農夫なんだけど、どうしてこうなったんだ?


俺達はプリン様の勢いに押され、門に向かっていく。

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