伝説の男

「そう言えばさー、冬樹チャンって中学時代荒れてたんでしょ?何か入学早々学校の番格の奴に呼び出されたって言うじゃん。それって、その後どうなったの?」


「……は?」


毎度のことながら、長瀬の突拍子のない話題の振りに。


「何だよ、それ?どこからそんな話、仕入れてくるんだ?」


何処かにツテか何かあるのか知らないが、そんなどうでもいいことに対しても無駄に情報収集能力を発揮する長瀬の好奇心には呆れを通り越して尊敬さえする。(……嘘だけど)


「にゃはは、企業秘密♪」


得意気に笑う長瀬と、その横で過去の話なのに何故だか心配顔の雅耶。


「そんなの聞いてどうするんだ?別に面白いネタなんかないぞ」

「いやー、実はさ。その話聞いた時、俺は冬樹チャンがボスをやっつけて世代交代したんじゃないかって予測してたんだ。雅耶は、それはないって否定してたんだけどさ。実のところ、どうだったのかなー?って気になってたんだよねぇ」

「世代交代って…お前ね。流石にそんなことはないよな?冬樹?」



(別に、過去のことなんてどうでもいいのに……)


そんなことがあったことさえ忘れていた程、オレにはどうでもいい話だったけれど。


何故だか、やたら答えを聞きたがっている様子の二人に。

仕方なく素直に答えてやることにした。


「確かに、その学校始まって以来だとかいう強面コワモテの番格がいたのは事実だよ。喧嘩も負けなしだとかで、やたら伝説だとか騒がれてたけど……。何でか知らないがオレがそいつに呼び出されたのも事実だ」

「おおっ!それでそれで?」

「……別にどうもしない。呼び出されて、ムカついて、全員伸してやった。それだけだよ」

「おおっ!やはりワイルドッ!」

「………」


嬉々としてる長瀬と、絶句してる雅耶。


やっぱ、聞いても仕方なかったネタだろ?


だけど、長瀬がまた身体を乗り出して喰い込んで来た。


「それでそれでっ?その後は、どうしたのさ。ボスは大人しく引き下がっちゃったワケ?」

「いや…。その後、随分と根に持たれて毎日散々嫌がらせ受けたんだよな……」


思わず遠い目になる。


「嫌がらせ?まさか、懲りずに喧嘩売られたとか?」


雅耶が痛々し気に聞いて来る。


「いや、喧嘩じゃなく……告白?」

「は……?」


雅耶が固まった。

長瀬は……何処か嬉しそうだ。


「最大の嫌がらせだろ?図体の大きな強面の奴に毎日待ち伏せされてさ。ふざけんなっての……」


思い出したらまたムカついてきたのか、冬樹はブツブツ文句を言いながら、二人の先を歩いて行ってしまった。



「……な、冬樹チャンの言ってたアレって…。絶対嫌がらせじゃない、マジなヤツだと思わない?」

「あーだろーなぁ……」


ウチの学校のドS教師がいい例だ。


「ある意味、伝説作っちゃったんだねェ。冬樹チャン……」

「ははは……笑えないよな……」


番格の三年生の不憫ふびんさに同情する、二人なのだった。


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