第5話

王都から遠く離れた廃村で一人の男性の遺体が発見された。



廃墟が並ぶうちの一つ、外観こそ寂れて酷いものだが建物内は修繕されていて確かな生活感がある。



食卓の上には食べかけとおぼしき冷えた食器が残されたまま。



床に横たわった男性の亡骸に目立った損傷や腐敗は無い、魔物に喰われた訳では無い。



恐らくまだ死後数時間か、穏やかな表情を見るに苦しまずに逝ったのだろう。



そして何より。



その双眸は死して尚、金色に光り輝いていた。



年の頃は60前後。



先代の光の神子が逝去してからの年数にもほぼ一致する。



「やはり存在していた…。こんな果ての村に居たなんて…」



魔物さえも寄り付かない果ての村だと、下級騎士達は何十年間も巡回を怠っていた。



当然だ。



金色の輝きを放つ光の神子に、生半可な魔物が近寄れる筈も無いのだ。



この廃村は、これまで世界で最も安全な場所だったに違いない。



しかし死と共に、こうして光の神子としての輝きを失いつつある今。



この果ての村も直に魔物の巣窟となるだろう。



「新たな神子様が誕生する筈だ。今度こそ全力で探し出せ!」



上級騎士の号令を受け、万を越える騎士達には知らず英気が宿っていた。



新たな光の神子の誕生。



それは世界を混乱から救い、均衡を保ち、平和と秩序をもたらす。



もう魔物に怯える事も、明日を不安に思う事も無い。



世界は崩壊を免れた。



誰もがそう信じて疑わなかった。



この数日後、城下で新たな神子が誕生するまでは…。








「…こんな…、まさか…」



声を震わせる神官のみならず。



誰もが、愕然と凍り付いていた。



「神よ、何故…」



神官の無意識の呟きは、絶望と驚愕に揺らぎ。



静まり返った室内には、赤子の泣き声だけが響き渡っていた。



希望である筈のその赤子の左目は、光り輝く金色。



そして右目は。



魔物と同じ、禍々しいまでの赤色。



新たなる光の神子の誕生は同時に。



再び人々を果てしない絶望に突き落としたのである。





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