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 そんな訳で現在——————。



 『ねえ、ねえ聞いた?板橋さんの噂』



 『噂?あの板橋さん?』



 『うん、彼女ってえ。…すぐに妹さんの彼氏を寝取るらしいよ。』

 


 『え〜ウソ!見えない〜信じられない!』



 『それ本当なら最悪じゃん、板橋さんて。』


 

 聞こえてます。聞こえてます。


 

 明らかに悪意のある噂話をしている同僚達。

 その音量から言って、控えてるんだか聞こえるように話してるんだかは不明だ。

 

 

 26歳になった凪は一年前、それまで勤めていた会社を辞め、今の職場に再就職した。

 最近急成長しているマーケティング会社で、ここでは雑務に加え、社員のアシスタントなどをやっている。

 


 そんな中でまたもや…1ヶ月月前。杏奈がこの会社に就職してきた。

 実家からも遠いこの場所へ。

 しかも同じ部署。

 もういっそ、杏奈は姉好きのストーカーだと思う事にしている。



 自分の事をどこまでも追ってくる異常な妹。

 姉の居場所を徹底的に奪う妹。

 どうしても姉をどうにかしたい妹。



 一生涯この状態が続くと覚悟して以来、凪は逆に何事にも動じないという鋼の精神(?)を手に入れた。



 黙々とPCに向かう凪の元に、さっき噂話で盛り上がっていた先輩の一人が近づいてきた。

 悪意のある人は大体こうやって、相手から情報を引き出そうとする。



 「ねえ…板橋さんって、妹さんの彼氏寝取るとか本当?

 本当だとしたら凄いよねえ。」



 椅子に座る凪を上から見下ろして、いきなりマウントを取ろうとする。

 自分以下の人間を貶めるのが楽しくて仕方ないんだろう。



 「凄いですか?どーも。ありがとうございます。」



 だが凪は、嫌味を嫌味とも受け取らず敢えてポジティブ変換してスン、と返した。



 鋼のメンタルは今日も絶好調である。



 お礼までするのだからある意味すごい。

 


 それに噂話しを否定する気もない。

 否定した所で噂話しが好きな人は結局、それが真実だろうと嘘だろうと、関係ないだろうから。


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