第40話 撃退

「今度はウルドとプラナに任せるよお父さん、ウィド」


 司祭の声を聞いて僕は居てもたってもいられずに声をあげる。何が死の救済だよ。司祭を生け捕りにすることはちゃんと聞かせておかないとな。


「我がマスターの許しが出た!」


「私達の出番というわけだな!」


 生け捕りの声もちゃんと聞いたふたりが早速駆けだす。ウルドが素早く切り裂き、プラナが激しくエンジェルドールの列にぶちかます。

 切り裂かれ、粉々になっていくエンジェルドール。元が人間でも魔石が残れば元に戻せるはずだ。グラフとフィールちゃんも倒されたら魔石に残るって聞いてる。この人たちも治し方が分かれば治してあげられる。


「ブラックゴーレムと比べると草を切りつけるが如くと言ったところか」


「うむ、弱い」


 ウルドとプラナがそう言って司祭の前に立ちふさがる。司祭はアワアワとしりもちをついて逃げようとする。


「逃げられるわけないでしょ。ちょっと君には聞きたいことがあるんだ」


 逃げようとする司祭の前に着地。見張り台から飛び出して一瞬で移動して見せた。

 司祭は僕を見下ろして鼻で笑ってくる。


「こいつを人質にして」


「はぁ?」


 ナイフを胸から取り出して呟く司祭。僕は思わず唖然としてしまう。

 あの速度で移動してきた僕を人質に……見えてなかったか~。

 しかたない、


「ナイフなんか利かないよ」


 突きつけられたナイフを凍らせて折る。ゆっくりとナイフの冷たさが司祭に移っていく。司祭は冷たさに気が付いて腕を戻す。凍ってる状態で無理やり離すから指の皮が剥がれて血が出てる。


「ひぃ!? ば、化け物!?」


「不躾だな~。化け物じゃないよ。赤ん坊だよ~。ってそんなことよりも君に聞きたいことがあるんだ」


 司祭が声を荒らげる。それに答えているとウィドとレッグスが司祭を囲う。ニヤっとみんなで口角をあげて見せる。すると司祭は観念したように頭を垂れた。


「か、神よ。我に力を……田舎者を屠る力を!」


『な!?』


 諦めたと思ったら司祭は凍ったナイフとは別のナイフを腰から抜き、自分の胸に差しこんだ。胸から赤い光が差し込み、辺りを照らす。


「魔石の活性化か?」


「そのようです。私は不活性化の魔石を使って人を魔物に変えましたが……どうやら、彼らは」


 レッグスの声にグラフが推測する。なるほど、ってことは司祭の取り巻きの人達もそれってことか。


「グバァ! グババババ!」


 司祭は信者達と姿が違う。白い肌の人の姿なのは一緒だが、目が一つで大きい。山よりも体躯だ。

 司祭は人とは思えない笑い声を辺りにまき散らす。普通の人が聞いたら腰を抜かすような恐怖の声。僕たちには効かないけどね。

 臨戦態勢に入る僕ら。その時、別の方向から寒気を感じると声が聞こえてきた。


「うるせぇ!」


「バ!?」


 まるで太陽でも落ちてきたかのような閃光が、大きくなった司祭にぶつかる。司祭の肉片が霧散して消えると声の正体が僕らに向けて視線を光らせる。


「よお! 俺は負けてねえぞ。第二ラウンドだ」


「グ、グダス?」


 司祭が霧散して消えたところに、僕と同じくらいの大きさの赤い物体が居た。四天王のグダスだ。とても小さいけれど、凄い圧と熱を感じる。


「最後の一滴になるまで俺は死なねえ。さあ、やろうぜ!」


 グダスが構えると熱が僕らを襲ってくる。しっかりと氷の魔法でみんなを囲う。『そうこなくっちゃな』とグダスが僕の魔法を見て呟くと一瞬で姿を消して僕の背後に現れる。


「ははは、俺の熱は一万度だっていうのに一瞬で冷ましちまう。お前知ってるな。寒さを!」


 グダスは突き出してきた拳を僕が止めると嬉しそうに声をあげた。

 僕は知っているよ。寒さを……体が冷めていくのを。死こそ、どんな熱よりも冷たい、僕は知ってる。

 心の中でそう呟くとグダスを睨みつける。奴は僕の睨みを見て顔を歪める。


「は、はは。俺をゾクゾクさせるのは魔王様でも出来なかった。正直、すぐにでもここを離れてえ。再度言わせてもらうぜ。天界への扉は開けるな。魔王様はそれだけを要求してる」


 ガチガチと体を震わせるグダス。恐怖で体が震えるんだ。死は誰でも怖いから。

 でも、その要求には答えられない。僕は元の世界に帰りたいんだ。

 その目的の障害となるなら天使も魔王も、僕の従魔にしてやる。


「俺も死にたくねえからな」


 僕は無言でグダスを睨む。すると奴は僕に握られている拳を切り離して離れていく。一瞬で消えた奴は今度こそどこかへ消えていく。


「あの様子なら魔国に帰るだろう」


「だけど行かせて良かったのかよ。今度は一人ってことはないと思うぜ。まあ、その時は人間の国と魔国の大戦争になりそうだけどな」


 グラフの声にウィドが頭の後ろで腕を組んで話す。戦争になるのは困る。他の人の迷惑になるから。


「魔国に行ってみたいな」


「海を渡ることになるので難しいと思います。海は魔族に有利ですからね」


 僕が呟くとグラフが答えてくれる。

 海に適応してる種族でもいるのかな。そうなると難しいだろうな~。


「ん~、魔王が来てくれれば色々聞けそうだけど」


「ははは、それはごめんですよ。【魔王サターン】はレグルスエイドを蹴散らす魔法を使ってくるような化け物です。流石のアキラ様でも」


 僕の声にグラフが首を横に振って答えてくれる。町を落とすくらい僕でも出来るけどな。フィールちゃんの付与魔法を受ければ素手でも行ける。って張り合ってもしょうがないか。


「って光星教会はどうしよう!?」


 グダスのせいでよくわからない司祭が魔石になっちゃったよ。司祭は言葉を話せなさそうな魔物になってた。どうせ生け捕りにしてもダメだったか。

 光星教会なら人間の国にあるはずだ。偉い人捕まえて聞くか。出来る事からやっていかないとね。

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