第14話 告白・1


二人でおにぎりを前に、手を合わせる。


「いただきます」


「いただきます」


 はむっと頬張った。

 もう二度と、食べられないと思ったおにぎり。


「うん……美味しい」


「はい、最高ですね。このふりかけ」


「ふりかけも美味しいけど、ふっくらほっこりして……本当に美味しいのよ、始くんのおにぎり」


「そうですか、良かった」

 

 何もかも変わってしまっても、この味は変わらない。

 そして、始の笑顔も変わらない。

 御曹司だとわかっても、私が養ってやる! と決めた男の顔と変わらない。


「わ……私……」


「ゆ、雪子さん」


 ポロポロと涙をこぼす雪子に、始は慌てる。


「始くん……私……」


「はい」


「私……貴方が……好き……よ」


 言えなかった想い。


言ってはダメだと封印していた……本心。


 でも今言わなければと想い、伝えた気持ち。


 それを聞いた始が、優しく微笑んだ。


「もちろん、知ってます。俺も大好きですよ」


 照れた笑いに、雪子は驚く。


「えっ……!? なにそれ!? 重荷にならないように、隠してたのに!?」


「隠してた……? セックスするたびに俺の事好き好き! って最初から言ってくれてましたよ? ……それに眠る前にも絶対、大好きってキスして寝てたじゃないですか……」


「ひゃっ……!? う、うそ……! きゃー! イク時!? あと、よ……酔っ払って……!? 私……うそぉ!」


「え……? 自覚なしで? それも最高ですけど……可愛い」


 始とのセックスは、絡み合って絶頂の連続で途中から確かに記憶がない。

 そして眠る前は甘いキスをして、お酒も入って……幸せの夢見心地であんまり記憶がない。


「最低じゃない……? ずっと心の奥に隠しておこうって思ってたのに……でも言っちゃってたんだね……」


「最高ですよ、可愛い。俺の腕の中の雪子さんは、普段の強気が嘘みたいに素直で可愛い」


 すべて見透かすように始が、微笑む。


「わ、私めちゃくちゃアホだよ……馬鹿だよぉ」


 言われた雪子は、恥ずかしさで顔も真っ赤で沸騰しそうだ。


「……俺も馬鹿ですよ。本当に情けない男です。でも雪子さんを離したくない」


「あ、貴方が情けないだなんて……そんな事あるわけないじゃない」


 助けに来てくれた時の始と、それに従う大勢の男達。

 あれだけで威厳を感じた。


「馬鹿者なんですよ。財閥の御曹司なんかじゃない自分を見てほしいとか思って、拗ねたガキでした。……そして御曹司でもない俺は、ただの飯も炊けない情けない男だったんです……家を出たら、身分証もない無職の何もできない男でした……御曹司じゃなかったら誰も相手にしませんよ」


「そんな事ない! 貴方のご飯、美味しいわ! 貴方は誰よりも……素敵だよ! 御曹司とか関係ない! 優しくて安らげて……無職だって、私が養ってあげるって思うくらい最高の男だよ!!」


 叫んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る