第5話 はじめて・2

 私ってこんなに肉食女子だっけ? と思いながらも気付けば夕方になっていた。


 雪子はシャワーを浴びてから、台所で夕飯の支度をしている。


「あぁいい香りだ」


 次にシャワーから出てきた始が、狭いキッチンにやってきた。

 

「あるもので夕飯~味噌汁とご飯と昨日買ったコンビニ惣菜で……いいでしょ?」


「俺もいいんですか?」


「食べるでしょ?」


「はい」


「味噌汁の作り方、わかる?」


「作り方は知っています。でも経験はありません」


 言い方に吹き出す。

 なんでも童貞のようだ。


「じゃあ教えてあげるね。ご飯の炊き方もさ。明日やってみなよ」


「え? 明日?」


 自分でも、その提案に内心驚いているのだ。


「うん。家にいていいからさ、私は明日から職安行ったり、空き時間バイトとかするつもりなんだ。その間にご飯作って、洗濯したりしてくれる? 始くんが今後どうするのかは、わからないけど此の部屋にいていいから自分の未来探しなよ」


 始も驚いた顔をした。


「会ったばかりの俺にどうして?」


「ん~? 顔もカッコいいしセックスも上手だし~……って嘘! なんか一緒にいると楽しいし、優しいし……」


「家もない、無職なのに……? 金だって尽きるかもしれないのに」


「えっ? それはどうにでもなるでしょ」


「……どうにでも……なる」


「健康で生きてりゃ、なんとかなる!」


 出逢ってまだ24時間も経っていない。

 でも、なんだか居心地がいい。

 狭い台所で彼が隣にいるのに、違和感がない。


「いや、私だってすぐ人の事わかるわけじゃないし、貴方が実はすごい悪人かもしれないよー? でも今のところは良い人だと思うし、人ひとり増えたくらい、なんとかなるって~家がなかったら仕事も探せないでしょ」


「雪子さん……ありがとうございます。お世話になった分は、もちろんお支払いします」


「んーまずは生活に必要なもの揃えたら? あとで買いに行こう! スウェットとかさ」


「はい、どうぞよろしくお願いします」


「そうだね、まずはよろしくだね! あ、もちろん~いつでも出てっていいんだからね?」


「いえ、しばらく此処にいさせてください。俺も、一般的な事を自分でやってみたいと思います」


「うん、いいね!」


「では惣菜を温めてみたいと思います。電子レンジの使い方、教えてくれますか?」


「そこからぁ!?」


 始は本当に、何もした事がなかったが何でもすぐ覚えて夕飯後の洗い物もしてくれた。

 それから朝までやっている大型量販店に、日用品を買いに行った。

 

 始は歌舞伎役者なんかは詳しいのに、人気の動画配信者や歌い手なんかは知らない。

 それでも彼の会話は面白くて知的で、なんだか仙人か天使かが、人間界に降りてきたような気持ちになった。

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