第3話 無職同士で・2

「うん、面白い。あの、コンビニという店に寄っていきませんか? 財布には現金が、まだあるので僕が払います」


 言い方が変だけど、まぁコンビニへは寄って帰ろうとは思っていた。


「無職なのに、いいの? まぁビールくらい買ってもらおっかな」


 酔っ払って、コンビニへ行った。

 雪子がフラフラしているので、支えるように手を握られる。

 無職の箱入り息子疑惑もあるのに、彼は不思議なオーラがあって何故か頼れる雰囲気だ。

 振り払うこともせずに、むしろその手が心地よくて雪子も自然に手を握って店内をまわる。


「これ美味しそう~ムール貝のガーリック焼き」


 冷凍食品を手に取って、カゴに入れる。


「冷凍で?……こんな料理が食べられるんですね……すごい事だ……」


「このワインも飲みたいな」


「ワインが……ワンコインで……?」


 雪子はかなり酔っ払っていたので、男が言う言葉も右から左へ聞いて笑った。

 そして、酒やツマミ、明日のご飯~などとカゴへ入れて……。


「ゴムもいる……?」


 冗談でゴムを指差した。


「あぁ、常備するにはいいと思いますよ。俺もいつも持っています」


「え!? 常に持ってるってこと!?」


「はい」


「……高校生みたいね……まさか親御さんの言いつけ?」


「まぁ、決まりみたいなものですね。ゴム無しセックスをして、子供ができたと言われても困るので」


「ぼえっ!?」


 笑うわけではなく、驚きの声だ。

 コンビニの店員が、チラッと二人を見た。


「な、なんか随分と……誠実そうなのに、本当はヤリチン?」


「いいえ、俺はまだ未経験です」


「ぼえっ!?」


 これも笑うわけではなく、驚きの声だ。

 やっぱり彼は親に管理された箱入り息子なのでは……?

 疑惑が更に深まる。


「では、これで会計でよろしいですか」


「うん~買いすぎたかな」

 

 雪子は、ビールやつまみが入ったカゴをレジに持って行って会計をした。

 男はスマホも財布も置いてきたと、ガサゴソとスーツのポケットから剥き出しの万札を出して支払ってくれた。


「ありがと!」


「いえ、ほら危ない」


 外に出てまた手を繋ぐ。

 酔っ払いに夜風は、気持ちがいい。

 防犯意識が低すぎる、なんて事もわかってる。


 でも今は、それでも今の時間が楽しいのだ。

 

「コンビニのビニール袋って持ちにくいですね」


「まさかコンビニで買い物もしたことなかった?」


「はは、そうですね」


「人としての経験がなさすぎない?」


 また、失礼な事を言ってしまった。

 でも彼は微笑んで『そうですね』と言った。

 1DKの質素な部屋に帰って、二人で飲んで……。


 朝には二人でベッドのなか。

 雪子は裸のままで、彼の腕で目を覚ました。


「……やってしまった……」

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