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「マスメディアはなにかというと好ましくない書き込みを盾にネットを非難しますが、自分たちこそ、有名人の恋愛や離婚などで誰も悪さをしていないにもかかわらず当事者を傷つける報道をしたり、落ち度はあっても逮捕やきちんとした謝罪がなされているのにいつまでもねちねちと批判し、保釈されたらヘリコプターで追跡するであるとか、叩きまくるではないですか。だいたい、散々悪く言っておきながら、自分たちが扱う情報のかなりの部分でネットを頼りにし、辛らつな意見はそこから抜粋して、問題が生じたら責任逃れできるようになど、都合よく利用しているんじゃないですか? それにリベラル系のメディアは、少しでも日本の良いところを褒めたりすると自国礼賛でけしからんと口にしつつ、スポーツでは自分たちも日本のチームや選手中心の報じ方をしていますし、国家主義的な言動をする一般の人たちを『ネトウヨ』や『レイシスト』などと蔑むような呼称をつけておいて、もっと発言に問題がある人でも名門大学の教授だったりすると『保守派の論客』といった立派な印象の呼び方をしたり、実は右派の方たちよりも庶民を見下している感じがして、信用できないんですよね」

 こういった発言が徐々に増えていき、隼人への期待を最もしていたリベラル派からの評価は失墜した。そして、主に批判された左派系のメディアや知識人からポピュリストと言われるようになり、反対に以下のような批判を盛んにされたのだった。

「柴崎議員による中傷や差別をする人々に関しての発言は、なるほど的を射ている部分があるかもしれないが、ヘイトスピーチまで擁護するのは言語道断だ。被害者の苦しみをどう考えているのか。それに、彼自身がリベラル派だとほとんどの人が思っていたのに、突如としてあのような批判を展開するようになったのはいったいなぜなのか。保守層にされていた攻撃に恐れをなしたのか。あるいは権力への欲が高まり、彼らからの支持を得ようとしてのことか。もしくはその両方かもしれない。真面目なリベラル派は自己を省みてくれるので、反対にそちらから票を失う心配はそれほどないと踏んだのではなかろうか。何にせよ、目玉の政策である社会ドラフトは、一見すると現在恵まれた立場にいる人たちは損になると感じてしまいがちだけれども、元のスポーツにおけるドラフトがそうであるように、スタートの時点で平等に近い状態にすると全体が潤って、結果的にみんなが得をするウインウインのシステムなのだというのが彼の主張で、政党名もそれを象徴するかのごとく共生党に変えたのではなかったのか。なのに、ああいうふうにリベラル派をこきおろし、保守派に『思っていた通り奴らは悪い連中だ』と認識させ、両者をつなげる気がまったく見えないコメントを行うのは整合性がとれず、理解に苦しむ。要するに、彼には明確な政治理念やスタンスなどはないし、社会ドラフトは人々のためではなく己の利益を獲得する手段に過ぎず、やはり本気で実現させたいわけではないのだろう。化けの皮がはがれたと言って、おそらく差しつかえはない」

 その反面、極右に近い人だけでなく、隼人と同様に口先だけだと中道左派の生ぬるさにうんざりしていた急進左派寄りの人たちも、彼を支持する声が強くなっていったのだった。それには彼が「自分はリベラル派を嫌っているわけではなく現状に満足していないだけであって、良くなってもらいたいからこそ批判をするのだ」と述べたことも影響しているかもしれないが、そうした人々は隼人をこう擁護した。

「彼の近頃の発言はポピュリスト的かもしれないが、世界各地でそういった政治家たちが政権を獲得している状況を鑑みれば、本気で社会ドラフトをやる気があるからこそ、まずは選挙で勝たなければならず、そのためにやっていることなのであろう。資本主義の恩恵を目一杯受けて大金を手にしておきながら、貧困や格差はけしからんとのたまう、格好だけの左派エリートより、よっぽど彼のほうが信用できる」

 また、支持している、していない、とは別に、「彼が口にしているように本気で政権を獲ろうというのであれば、大衆に評価される必要があり、以前のほうが好感度は高かったのだから、一部の保守層による安定した支持が欲しいだけではないか」とか、「いいや。万人に好かれようとすると誰からも好かれない結果に至ってしまうものであって、だからこそ海外では嫌悪もされるポピュリストたちが次々政権の座に就いているんで、彼のやり方は正しいし、リスクを承知でこうしたことを行っているんだから、政権奪取を目指しているのは本当だろう」など、意見はさまざまあった。

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