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「あの発言の最後に、違うタイプのドラフトも頭にあるとおっしゃったじゃないですか。あれが個人的にものすごく気になっておりまして、さわりだけでいいので、どういったものなのか、お聞かせ願えませんでしょうか?」

 社会の多くに取り入れるというのに加え、隼人が代表を務める社会党にちなんで、「社会ドラフト」と呼ばれるようになった今回のアイデアへの関心が高まりを見せると、すぐさま彼はそのときとは別の、情報系のテレビ番組に招かれた。

 そして隼人一人が離れた位置に座り、他の出演者たちから質問を受けるという流れで番組が進行するなかでなされた、いくつものレギュラーを抱える人気の中年の男性司会者による求めに、隼人は以下のように答えたのだった。

「それでは、前回は弱い立場とはいえ、病院や自治体など組織を救済する話で、それは患者や住民といった人につながっていて、そこが最も重要なのですけれども、よりダイレクトに弱い立場にある個人を助けるアイデアとしまして、現在、経済的に厳しい状況に置かれた家庭の子どものために各地で無料の学習教室が開かれておりますが、間違いなくもっと必要でしょう支援の方法として、定年退職された元教員や大学生などで先生役をやってくださる意志のある方に登録というかたちをとっていただき、困窮の度合いが大きい家庭のコから順に、その登録者から一人を指名して、勉強を教えてもらえるようにする。指名ができるのは各登録者が受け持つことが可能な人数までで、例えば登録者のAさんが教えられるのが十人で、指名する順位の最上位十名がすべてAさんをチョイスした場合、十一人目以降のコはAさん以外からしか選べない、というようなものを思い描いているのですが、いかがでしょうか? そして、前のときは医師の例を挙げて、公務員や教員でも同様にできないかと申しましたけれども、これに関しても同じようにして、『主に就職のための資格取得支援』や『家計管理のアドバイス』といったものなどができないかとも考えております」

 隼人は、言葉遣いは丁寧でも、いかにも政治家といった堅苦しさはない、視聴者が親近感を持つような振る舞いを心掛けた。前の番組は政治家ばかりだったので、ひたすら真面目な態度で良かったが、それと同じだとイメージがマイナスにすらなりかねないと考えたからで、要するに番組に合わせたのだ。ただ、あまりフランク過ぎるのも問題があろうということで、ちょうどよい具合に。とはいえ、庶民の出だから、勉強に打ち込んで浮世離れしているような時期もあったものの、基本的に普通にしていればよい話で、それほど難しくはなかったのだった。

 また、党首というポジションや、党に猛烈に歓迎されて入った経緯等により、そうした態度の使い分けなどを仮に好ましくないと思うメンバーがいても苦言を呈されたりすることはなく、自分がやろうと判断したものはストレートに実行できた。

 独り善がりに陥らないように、奈穂子に意見を仰ぐことは忘れなかったが、以前約束した通り、彼女にも多忙なときがあって、それの邪魔はしないよう、そこまで頻繁には頼らなかった。しかし、そもそも奈穂子の考えを聞けずにどうにかしなければならない状況など山ほどあるわけで、逐一頼みにしているようでは困りものだろう。

「はーい。ちょっといいでしょうか?」

 そこで、バラエティーなどどんなジャンルの番組にも登場する、四十代半ばの役者の女性が、右手を挙げて声を出した。

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