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「安藤さん。繁原、どこに行きますかねえ?」

 とある開店間際の大きなスーパーマーケットで、細身で髪が少し茶色い、二十歳のアルバイト店員の渋沢が、その彼よりも若干年上で、こちらは鍛えていそうでがっちりとした体つきの、同じく男のバイト店員である安藤に、そう話しかけた。

「その前に、シャークスが指名するかだよな」

 安藤は、商品が入ったいくつもの段ボールを運ぶ作業にきちんと集中しながら、愛想よく言った。

「確かにそれも気になりますねー。柴崎さんはどう思います?」

「……何が?」

 渋沢の背後にいて、振り返った彼に笑顔で声をかけられた隼人は、少し間を置いて、ぶっきらぼうに答えた。

「ドラフトですよ、今日やるプロ野球の。毎年この時期は話題になりますけど、特に今年は盛り上がりがハンパじゃないじゃないですか。俺はやっぱり繁原の行方が気にかかってるんですが、どうですかね? 柴崎さんが他の選手のほうを注目しているなら、それについてでもいいですけど」

「知るかよ!」

「わっ!」

 しゃがんで豆腐を棚に並べていた隼人は、すごい勢いで立ち上がると、頭から蒸気を噴射でもする感じでその場を離れていった。彼もこの店で働いているのだ。そして反対側で段ボールから棚にグレープフルーツを積み上げていた渋沢は驚いて、危うくそれを派手に崩すところだった。

「フー」

 見ると、隼人はかなり遠くまで行っている。

「どうしたんですかね? 柴崎さん」

 怒りを向けられた渋沢は、そばにいる安藤にまたしゃべりかけた。安藤は相変わらず仕事をテキパキこなしつつ、質問にもちゃんと返事をした。

「知らなかったのか? あいつ、スポーツに興味ないし、なかでも野球は、それに関する話を耳にするだけで虫ずが走るくらい大嫌いなんだとよ」

「ええ? マジっすか?」

 解せない表情でそう口にした渋沢は、左手をあごに持っていって視線を上へ向け、引っかかった何かを思いだそうとした。

「あれー? でも以前、店の前に子どもが遊んでいる小さいボールが転がってきたのを、柴崎さんが投げ返してあげるとこを見たんですけど、軽くとはいえ、そのフォームが長いこと野球をやってた感じですごくサマになっていて、絶対に野球が好きだろうと思ってたのにな」

「へえ」

 そのエピソードが興味深かった様子で、安藤は動かし続けていた手を一瞬止めて、渋沢に視線を向けた。

「俺も、ぱっと見だけでもあいつ運動神経良さそうだし、スポーツに関心がないって聞いたときは意外だったけどさ」

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