第34話

プレゼント用ですかと聞かれて『はい』

と答えてしまった。


自分用とは言えなかったけれど、お揃いのマグカップを使う日を楽しみに心弾ませ店を出た。


さっきよりも気温は下がってきたのか、暖まった体はより寒さにこたえる。


いつものパン屋の前で足を止め、今日限定の物を買った。


独りで食べるには、ほんの少し大きけれど、予約もしていなかったのだから、買えただけでも嬉しい。


最後に商店街とマンションの間にある一軒のお店で今日の主食を買い、日の落ちた空を見上げた。



「降りそう…」


両手が塞がった事で、鍵を取り出す手間がいつも以上にかかっていた。


後に人の気配を感じて、急がなきゃと慌てると、更に状況は悪化するもので…


「すみません。先に良いですか?」


と、言われてしまう始末。


「あっ、すみません…」


その場を譲ろうと後を振り向けば、逢いたかった人が…


「ただいま…っか気がつけよ!」


「……」


言葉よりも、気がつけば両手の塞がったまま彼に抱きついていた。


「何そんなに買ったんだ」


独りで食べるには少しだけ多いチキンと、少しだけ大きいケーキはほんの少し傾き、ラッピングしてもらったマグカップはリュックの中で、少しだけ音を立てた。




「…谷田さんお帰りなさい…」


~fin~

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